能力開発データベース

■能力開発技法

ロール・プレイング





概要 特徴と効果 実施の手順 実施・開発上の留意点 その他

■概要

役割演技法と訳します。現実に近い場面を設定し、参加者に特定の役割を演技させることによって、上司と部下、セールスマンとお客など、それぞれ、相手の気持ちを洞察したり、望ましい行動、基本動作などを体験的に習得させる技法です。

ロールプレイングが生まれた背景は、1923年に精神学者のヤコブ.L.モレノが開発したサイコドラマ(心理劇)から発展した技法で、もともとはノイローゼやうつ病、アルコール依存症などを治療する心理療法の技法でしたが、近年は、管理者訓練やセールスマン訓練などの研修技法として広く応用されています。


■特徴と効果

ロール・プレイングでは、それぞれの役割遂行を媒介として、人と人とがお互いに対応する場面を通して、次のようなことを学習することが期待できます。

  • 相手の考えや感情の動きをつかむことのむずかしさ。
  • 相手の話を完全に聞き取ることのむずかしさ。
  • 傾聴と共感の重要性。
  • やりとりを通して状況が変化することをつかむ。
  • 自分の言動の特徴をつかむ。
  • 自発的で柔軟性のある行動がとれる。
実際に自分自身で、所定の役割を演じることにより、納得の度合いも高くなり、受講者の態度変容に大きな効果が期待できます。

そのため、一つのテーマの講義が終了した後、理解の確認と言動への変化を期待してロール・プレイングを実施することがよくあります。また、受講者の参加意欲向上のためにも効果的です。


■実施の手順

ロール・プレイングの実施の手順は、次の通りです。

実施のステップ:
@目的、進め方を説明する
A役割の決定と演技の準備
B役割の演技(ロールプレイ)
C演技の評価とフィードバック
D場合により、再演技を行う
人 数:
20〜30人クラスで、4〜6人グループが適当。

時 間:
準備、演技、フィードバックに同等時間を設定するのが標準。フィードバックの時間を十分に与えることが望ましい。

使用教材:
@役割シート(本人役、相手役)
A準備シート
Bフィードバック(観察)・シート

その他:
机などのレイアウト変更で、環境作りも大切である。

  • ある場面を設定し、受講者が2人でペアを組む。
  • たとえば、1人が欠勤しがちな部下の役割(相手役)を、もう1人がそれを説得して欠勤しがちな部下の態度・行動を改善しようとする上司の役割(主役)を演ずる。
  • 残りの受講者は観察者となる。
  • 次のような「役割シート」を用意しておくとやりやすい。



役割シート1(営業マン役用)

あなたは、あるシステム商品Xの販売を担当するA社のセールスマンの○○さんです。数週間前からB社にアプローチをしており、購買担当のY氏は当社の商品Xに関心を示しはじめています。もしかしたら、販売に成功しそうな見込みです。今日アポイントを取って、B社のY氏を訪問することになりました。



役割シート2(お客様役用)

あなたは、B社の管理部で事務情報関連機器の購買を担当しているYさんです。数週間前からA社の○○氏がシステム商品Xの売り込みに来ています。機能や性能はほぼ満足すべきもので、少しばかり副次的な機能を付属させれば、十分に当社の要望に応えられそうです。ただ、価格の点で、厳しい予算制限を受けており、上司の承認が得られるかどうか不安が残ります。今日、午後、○○氏が来訪することになっています。



[演 技]

  • 役割演技の所要時間は、10分か15分くらいが適当。
  • 演技の中で主役(上司役やセールスマン役の人)は自分なりのやり方で自由にふるまう。柔軟に色々なアプローチを試してみる。
  • 相手役(部下、お客)は主役に対して非協力的な態度で接してよい。
  • はじめは非協力的で、主役の対応によって、次第に協力的になっていくのも、一つのやり方である。


[フィードバック]

  • 10分か15分で演技の一区切りがついたところで、演技を中断して、主役の演技(言動)などについてコメントを述べ合う。これを「フィードバック」という。
  • まず主役が自己の言動を振り返ってのコメントを述べ、次に相手役が演技の中で感じた気持ちを述べ、最後に観察者たちが、1人ずつ順番にコメントを述べる。
  • このようなコメントの表明の中から、今後の行動改善への手がかりをつかみ取る。
  • それぞれの立場からのコメントが重要であり、主役に「改善点」だけではなく、「良かった点」を気づかせることが重要である。
  • そのためには、できるだけ具体的な、言動レベル(演技の中で、実際にやった態度、ジェスチャー、言葉など)でコメントするようにガイドすることが重要である。


[観察シート]

役割演技のためのフィードバックをやりやすくするためには、次のような「観察シート」の活用があげられます。

<観察シート例>

@ 熱意や誠意は感じられたか。

A 相手の気持を理解しようとしたか。

B 相手からの信頼が増大したか。

C 話の内容は筋道が通っていたか。

D 重要なポイントは強調していたか。

E 言葉の使い方は明確だったか。

F 表情やジェスチャーは豊かだったか。

重要なのは、上記の印象、感想はどのような言動からそのように感じたかを観察し、メモを取っておくことです。


■実施・開発上の留意点

ロール・プレイングを指導する上での留意点は、次の通りです。

  • まずリラックスした雰囲気を作ること。
  • そのためにウォーミング・アップをすること。
  • お遊びにならないように注意すること。
  • 役割演技の目的を十分に理解させること。
  • 進め方の段取りをきちんとたてること。
  • 役割の分担などをてきぱきと行うこと。
  • 段取りにしたがって進行を手際よく管理すること。
  • 目的に合ったケースを作成すること。
  • フィードバック・シートを作成すること。
  • フィードバックの時間を十分にとること。

■その他

ロール・プレイングの原型は「サイコドラマ(心理劇)」とされています。サイコドラマは、オーストリア出身のアメリカの精神科医ジェイコブ(ヤコブ)・モレノが1930年頃に創始した集団心理療法の一種です。神経症や心身症、分裂病などの患者に対して、ある対人的な課題解決を必要とするような即興劇(台本のないドラマ)をグループの中で演じさせます。その演技を通して、患者は自己の心の問題(心理的な葛藤、情緒的な煩悶など)を情動的に表現・表出し、即興的に自発性や創造性を発揮して、困難な課題を克服していけるように導いていくものです。

このような“治療”のやり方を“教育訓練”に応用したものが「ロール・プレイング」です。

■モレノ (J.L.Moreno : 1892-1974)

ルーマニア生まれのアメリカの精神病理学者で、サイコドラマ(心理劇)の創始者。
文学、演劇などに関心をもっていたが、1917年ウィーン大学で医学の学位をとる。その間フロイトの講義に出席する。フロイトのように夢を分析的に解釈するのでなく、夢を舞台の上で行為的に再現する手段として筋書きのない上で自発的な即興劇を試みた。これがのちにサイコドラマとよばれるものとなる。
サイコドラマでもっとも一般化した技術はロール・プレイングであるが、これは彼の役割理論、自発性理論に基づいている。

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■サイコドラマ (Psycho drama)

アメリカの精神病医モレノ(J.L.Moreno : 1892-1974)が考え出した集団心理療法の一種であり、グループ・セラピー(集団療法)の先駆をなしている。
同じような神経症の患者を集めて、ある題の劇を演じさせ、このなかで自然に心の内部が表現されるようにすること。

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