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初めに「技能と技術」の巻頭言を書く機会を頂きましたことは私にとり大変光栄なことです。併せて「技能と技術」という誌名に敬意を表します。といいますのは「技能」が「技術」の前に位置している点であります。そもそも技能あっての技術であり,技能の無い技術は有り得ません。技能と技術はモノづくりの基本であることは,ご存知の通りであり,我が国は世界に冠たるモノづくりに長けた国であり,このことは技能五輪において我が国が指導的役割を果たせていることからも明らかであります。今後,世界において,我が国がモノづくりで優位であり続けることが,世界の情勢がどうであれ,最重要な課題であることは,間違いありません。ところで,世界は,現在,第4次産業革命下にあります。蒸気機関などの発明による工場の機械化が第1次,次いで電力などによる大量生産などが第2次,コンピュータの出現による工場の自動化などが第3次の産業革命であり,現在のインターネットおよび人工知能を核にする革命を第4次産業革命と呼んでいます。日本開発工学会におきまして,11月18日に開催しました総合シンポジウムのテーマは「我が国のモノづくり・コトづくりの再構築と第4次産業革命」でありました。現在が第4次産業革命下にあると言われる理由は米国経済の突出した状況にあります。2017年のグーグルの親会社であるアルファベットの売上が1,109億ドル(約12.2兆円)を記録し,昨年比で23%の成長です(1)。2017年10〜12月期における,アップルは売上高が前年同期比13%増の882億9300万ドル(約9兆6千億円)であり,アマゾンは売上高38%増の604億5300万ドル(約6兆6千億円)でした。いずれも売上高は-1-過去最高を更新しました(2)。トヨタの2018年3月期の売り上げは29兆円ですから(3),年換算ではアップルはトヨタを抜き,アマゾンはトヨタに迫っています。かつて,米国につぐ国民総生産額(GDP)を誇った,日本とドイツは,これに遅れてはならじと,インターネットと人工知能(AI)を活用するビジネスを国策として推進するプロジェクトを立ち上げているのです。目指すところは,現在の生産形態に,更に高度にコンピュータ・ネットワークおよびAIを取り入れて,省力化を計り,利用者の要求に柔軟に応じる生産体制の確立など,広範囲に及んでいます。産官学の連携により,AIなどの最先端技術を取り入れるプロジェクトと言えます。膨大なデータをサーバーに集積し,このビッグデータをAIが解析利用し,付加価値を生み出す。コンピュータが自ら学習し,判断を行うことが可能になります。AIの科学技術分野以外への利用が普及しています。昨年5月,将棋の名人がAIに敗北し,グーグルが開発した「アルファ碁」に世界最強のプロが敗れています。これにより,AIは人間より優れているのではないかという誤解が生じ,一部に不安が広まっています。これは,2013年9月,オックスフォード大学のオズボーン助教授(当時)などが,米国において10〜20年内に現在の仕事の47%が機械に代替されるリスクがあると発表した論文の影響を受けた結果であると推測できます。しかし,間違えてはならないのは,AIは人間が教えたことは学習できるが,人間が教えないことはできないことを理解しておく必要があるということです。将棋や碁で人間がAIに負けるのは,AIが勝一般社団法人日本開発工学会代表理事・会長 大江 修造近未来の社会における技能と技術

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