4/2018
19/36

距離がある,ということでした。例えば,会議室でのテストでは,使いやすいと判断される液晶ディスプレイも,強い太陽光の下で使われる製品であったら,実際の現場では見づらいかもしれません。あるいは,製品自体には問題がなくても,故障したときにコールセンターの対応が悪くて,修理ができなかったら,結局,製品はうまく使えないことになってしまいます。このように,ユーザーをとりまく状況すべてをよくしていかないと,本当の意味で「製品が使える」ことにはならない。これまでの一時的な使いやすさに対して,ユーザーの製品にかかわる「体験(Experience)」そのものを良くしよう,ということで,この考え方を「ユーザーエクスペリエンス」と呼びます。ユーザーエクスペリエンスの流れを受けて,HCD-Net認定 人間中心設計専門家の資格制度も,より広い範囲を対象とする必要が出ました。そこで,2012年から1年以上かけ,資格制度で認定するスキルを大きく見直し,ユーザーエクスペリエンスの潮流にも対応した資格となりました。2013年になると,人間中心設計を専業にしてプロジェクトを取り仕切る「人間中心設計専門家」だけでなく,システムエンジニアやデザイナーなどの職能を持ちながら,人間中心設計のスキルも用いて業務をこなしていく,現場の人間も認定してほしい,という声が強くなりました。そこで,資格制度の裾野を広げるかたちで,いわゆる准専門家資格の認定を始めました。准資格の名称は「人間中心設計スペシャリスト」となりました。受験資格は,「人間中心設計専門家」が実務経験5年以上,「人間中心設計スペシャリスト」が実務経験2年以上となっています。制度は更新制となっており,3年ごとに更新が必要です。2018年の現在,「人間中心設計専門家」と「人間-17-中心設計スペシャリスト」をあわせて,累計で約800名強が認定されています。資格制度の開始から10年が経ち,制度のさらなる発展を目指して,毎年,審査基準や審査方法を向上させてきました。今後も,認定者が,製品・システム・サービスの開発の現場において,優れたスキルを発揮できるよう,そして,多くの実務家がこの資格を取得する制度に育てています。人間中心設計の専門人材を求める社会のニーズは,年々,強くなっています。機能中心ではなく,使う人を軸に,良いものをつくる。そういうニーズが,多くの企業のなかで高まっています。とくに現代は,さまざまな製品の日用品(コモディティ)化が進み,製品やサービスの差別化がしづらくなっています。そのなかで,継続的にブレークスルーを生み出していく原動力として,ユーザーを知る方法である人間中心設計が期待されているのです[3]。人間中心設計の専門知識を持つ人材の育成が急務です。ユーザーを「観察」して,ユーザーの目線でものづくりをするには,ある程度の基礎知識が必要です。企業のなかでの研修はもちろん,大学や専門学校でも,人間中心設計の知識に触れる機会が増えていくことが期待されます。人間中心設計の専門人材を育てるノウハウを持っている企業はまだ多くはなく,大学や専門学校で,体系的な教育を受けた人材に,企業から熱い眼差しがそそがれています。これまで紹介してきたように,「人間中心設計専門家」および「人間中心設計スペシャリスト」の資格認定制度は,人間中心設計の専門スキルを評価し,認定する,日本で唯一の人間中心設計の資格制度です。6.より裾野を広げた資格へ7.社会で必要とされる「人間中心設計」の  専門人材と,その育成8.「人間中心設計専門家」資格の概要

元のページ  ../index.html#19

このブックを見る