4/2018
18/36

か,使いかたを間違えるか,それを洗い出すという手法が取られました。この手法は広まり,さまざまなメーカーの製品開発で用いられるようになります。2000年代には,爆発的なインターネットの普及のなかで,ウェブサイトやスマートフォンのアプリの改善にも,この手法が用いられるようになります。また,無形のサービスの改善や,ときには企業の事業戦略の見極めといった大きなものにも,この手法は応用され,成果をあげていきます。この考え方,取り組み方は,機能の高度さや多さで製品をつくるのではなく,利用者である「人間」を起点に製品をつくることから,「人間中心設計(Human Centered Design)」または「ユーザー中心設計(User Centered Design)」と呼ばれます。実践のための手法は40年の歴史のなかで洗練されてきました。その専門家が「人間中心設計専門家」です。人間中心設計専門家は,使いやすさの専門家です。NPO法人人間中心設計推進機構(以下,「HCD-Net」という。)は,この人間中心設計の専門家たちが集まる業界団体です。人間中心設計の普及・啓発のため,人間中心設計の技術とプロセスを研究・開発し,さまざまな知識や手法を適切に提供することで,多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりを目指す団体です。2005年の設立以来,拡大を続け,2018年の現在では企業や大学を中心に正会員約760名,賛助会員62社の会員が在籍しています。HCD-Netでは,2009年度より,人間中心設計の専門家を認定する,資格制度をはじめました。その背景には,人間中心設計のスキルを,客観的に保証する必要がありました。2009年,政府において,電子政府ユーザビリティ-16-ガイドライン[1]が制定されました。それまで,政府のシステムは,どうしても機能目線で開発してしまう傾向があったなかで,国民に広く使ってもらうシステムは,誰にでも使いやすいことが大切だという,その方向転換の現れです。電子政府ユーザビリティガイドラインには,政府のシステム開発の初期段階から計画的に,使いやすさの専門家(ユーザビリティ専門家)がかかわることが規定されています。このガイドラインの制定には,HCD-Netもかかわっています。他方で,ガイドラインの制定当時は,ユーザビリティ専門家という定義も資格もありませんでした。そこで,HCD-Netがユーザビリティ専門家の認定制度を立ち上げることになりました。資格は,誰からも客観的にスキルを保証される必要があります。また,政府のプロジェクトにかかわれる実力のある人材であることを証明するのが目標です。実際の現場で実績のある人間でなければなりません。資格制度の制定は,慎重に検討を進められました。使いやすさを見極めるスキルとはどういうものか,洗い出していきました。検討には1年近くかかりました。検討のべースとなったのは,総合研究大学院大学佐藤のユーザビリティ専門家の知識,スキル(コンピタンス)に関する博士論文[2]です。そうして設立されたのが,「HCD-Net認定 人間中心設計専門家」という資格制度です。人間中心設計のスキルを保証する,日本で唯一の人間中心設計の資格制度です2010年3月末に,第1期の認定人間中心設計専門家119人が,世界に先駆けて誕生しました。2000年代の後半から,国内で「ユーザーエクスペリエンス(User Experience,UX)」という用語がよく使われるようになりました。「使いやすさ」を追求していった結果わかったことは,製品だけを使いやすくしても,「本当の」使いやすさからはまだ3.人間中心設計推進機構(HCD-Net)4.HCD-Net認定 人間中心設計専門家5.ユーザーエクスペリエンス(UX)の潮流

元のページ  ../index.html#18

このブックを見る