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NPO法人人間中心設計推進機構 羽山 祥樹・早川 誠二・伊藤 潤会議室に,男性が2人いる。ひとりは「ユーザー」,もうひとりは「使いやすさの専門家」。机におかれた新製品を,ユーザーは戸惑いながら,なんとか使いこなそうとしている。専門家は,黙って,じっとその様子を見ている。やがて,専門家は別室へ向かう。別室では,先ほどの様子が中継されていた。新製品の開発者が,ショックを受けた顔で腕を組んでいる。専門家は,おだやかに,それでいて確信をこめた声で言う。「ご覧になったとおりです。―新商品は,使いやすさに大きな課題があります」私たちの身の回りには,たくさんの製品があります。家具,家電,さらには,かたちのないサービスや,ソフトウェア,ウェブサイト,スマートフォンのアプリなど,あげていけばきりがありません。そして,それぞれの製品は,使いやすかったり,逆に使いづらかったりします。これらの製品の「使いやすさ」は,どのように生まれているのでしょう。製品を開発する段階で,自然にできあがってくるのでしょうか。実は「使いやすい」製品というのは,自然にはできあがってこないのです。専門的な知識をもって,製品の開発中に「使いやすく」改良する,という仕事があるのです。-15-使いやすさの専門家。それが本稿で紹介する「人間中心設計専門家」です。冒頭の会議室のシーンは「ユーザビリティテスト」と呼ばれます。「ユーザビリティ」とは,日本語で「使いやすさ」のこと。つまり,発売前の新商品の,使いやすさをテストしているのです。ユーザー,すなわち,実際にその新製品を使うことになるだろう人に,あえて説明なしに,発売前の新製品をさわってもらい,それでも問題なく使えるかどうか,試していたのです。別室には,新製品の開発者がいました。リアルタイムでユーザーが「使いかたに戸惑う」ようすを見せることで,開発者に課題の大きさを肌で感じてもらう。これも製品の改善に大切なことです。このようなテストを繰り返し,問題点を明らかにして,製品を改良していきます。使いやすさに,とくに焦点があたるようになったのは,1980年代のことです。さまざまな製品の機能がどんどん増えていくなかで,操作方法が複雑になりすぎて,とても使えたものではない,という状況になっていました。たとえば,企業向けの製品ではコピー機。消費者向けの製品では,ビデオテープレコーダー。そういった製品の操作が複雑になって,問題になっていました。使いやすさとは,客観的な評価のしづらいものです。機能がついている,ついていない,といったシンプルな判断とは異なるからです。どうすれば操作方法をうまく改善していけるでしょうか。そこで,実際のユーザーが,本当に製品を使っているところを「観察」して,どんなところで戸惑う1.はじめに2.「使いやすさの専門家」という仕事〜認定_人間中心設計専門家〜「使う人」を観察して,モノをつくる仕事

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