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<参考文献>労働力不足が特に深刻化している状況にある中で,企業がAI等の活用を積極的に進める可能性が高いと考えてよいだろう。ただし,労働者側の意識は必ずしもそれに対応していないようである。情報通信白書(総務省,平成28年度版第4章第4節)がAI活用に対する労働者の意識などの日米比較を行っているが,日米両国の労働者へのアンケート結果において,米国の労働者は人口知能の普及に備えて,それを使いこなせるようにし,今の仕事・業務に適応させるための対応・準備を重視する姿勢がうかがえる一方,日本の労働者は「対応・準備は特に何も行わない」,「特に取得したい人口知能活用スキルはない」との回答が多く,AI活用の流れに乗り遅れるのではないかとの懸念も生まれている。他方で「自身が持つスキルとマッチしているタスクを完遂することが第一目標である米国に対して,日本ではスキルの有無にかかわらず(社会性などコンピュータの苦手分野を含む)多様なタスクを遂行することが求められている」との指摘もあり,このことが日本の労働者のAIの影響に対する感度(の低さ)に影響しているのかもしれない。とはいえ,我が国でも労働者や学生がAIなどの先端的・汎用的なコンピュータ技術のことをよく知り,うまく使いこなし,うまくつきあう術を積極的に身に着けることは重要であろう。当国立職業リハビリテーションセンターは障害者に対する専門的な職業訓練と職業指導を一体的に行う施設として40年近い歴史をもつ。設立当初は,対象を肢体,視覚,聴覚・言語の障害者に限っており,初期(昭和54・55年開始)の訓練科は機械科,溶接科,金属彫型科,機械製図科,光学機器科,トレース科,金属工芸科,木工科,木材工芸科,化学分析科,電子機器科,電気機器科,電子計算機科,経理事務科,和文タイプ科,製版・印刷科,構内電話交換科,縫製科,洋裁科,洋服科であった。その後,平成10年には知的障害者を,14年には精神障害者と高次脳機能障害者を,20年には発達障害者を受け入れるようになり,既に訓練生の5割以上がこれらを主な障害とする人になっている。現在の訓練科の構成は,機械製図科,電子機器科,テクニカルオペレーション(1) Frey C.B., Osborne M.A.(2013)“The Future of Employment : How susceptible are Jobs to Computerisation”, University of Oxford(2) Berger T., Frey C.B.(2016)“Structural Transformation in the OECD -DIGITALIZSATION, DEINDUSTRIALISATION AND THE FUTURE OF WORK-”, OECD(3) Arntz M., Gregory T., Zierahn U.(2016)“The Risk of Automation for Jobs in OECD Countries -A COMPARATIVE ANALYSIS - ”, OECD(4) Nedelkoska L., Quintini G.(2018)“Automation, skills and training”, OECD科,建築製図科,OAシステム科,DTP・Web技術科,経理事務科,OA事務科,職域開発科,職業実務科の10科(17コース)であり,この間におけるIT革命などの技術進歩が障害者職業訓練の世界に与えた影響を物語る構成・内容になっていると言える。障害者については,一人ひとり異なる障害特性などに適合したカリキュラムと配慮をもって訓練を行うことが大事であると言われており,当センターもモデル校的な位置づけをもってそれを実践しているところである。他方で,職業訓練が就職や職業能力の向上を目的とした訓練である以上,世の中の産業・職業動向が変化すれば,その影響も敏感に受けることになる。今後,障害者の職業訓練にもAIの要素が入ってくることは十分考えられるが,その方向は,職務遂行のためにAIを活用した種々の機器・ソフトを使いこなすスキルの習得と,障害を補完することのできるAI機器・ソフトを活用するスキルの習得の両面になるのではないか。世界の技術動向に常にアンテナを張り,後手に回ることのないようにしたいものである。まつもと やすひこ略歴1982年4月 労働省入省2009年4月 厚生労働省職業安定局 人道調査室長・ハローワークサービス推進室長2011年7月 (独)労働政策研究・研修機構 統括研究員(キャリア支援部門)2014年4月 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 2016年4月 秋田労働局長2018年4月 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構 -2-障害者職業総合センター統括研究員(障害者支援部門)国立職業リハビリテーションセンター次長

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