3/2018
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図6 平面上での非弾性衝突イメージ-26-念を「等角反射信念」という。)。そして,この誤概念は,衝突現象の基礎理論について通常の教育方法による習得を経験した後でも残存することが確認されている。このことは,机上では科学的概念に基づく理論的解釈で思考・判断するが,いざ日常生活に戻ると誤概念を基に思考・判断してしまう,といったように,二つの知識体系で物事に対処しかねない危険性を暗示している。教育現場の中でこうした誤概念を修正するには,通常の知識伝達型授業では困難で(25),(26),学習者に自らの誤った概念について意識化させる必要があるとされる(27)。そもそも,学習者は自らの誤概念に無自覚的であることが多く,それが誤概念の修正を困難にしているという側面がある。そこで,学習者が自らの誤概念に気付くような働きかけ(メタ認知的支援)を行い,新しい科学的概念と誤概念の接続・照合を内的過程として生成させ,誤概念から科学的概念への概念修正を促す研究・実践が盛んになされてきた(28)-(30)。例えば,上述の等角反射信念についても,筆者により「誤概念の明確化」と「誤概念の獲得過程の明確化」の両アプローチを通じ,より確実なメタ認知的支援を試みたところ,著しい概念修正が実現されることを確認できている。具体的には,誤概念の反証的事実に直面させる測定実験により,学習者自身が保有する誤概念の存在に気付かせ,それに続く討議により,どういった経験的裏付けがそうした誤概念を保有することの原因になり得たのかについて反省的思考を促した。そして,誤概念の獲得過程の明確化プロセスの結果,「等角反射信念獲得に繋がり得る経験的裏付け」として,大き3.2 誤概念認知科学研究などを通じて,知識は,計画的・体系的な教育のみにより獲得されるものではなく,自分自身の経験を通しても獲得されることが明らかにされている(17), (18)。従って,教授-学習の場面で新たに取り上げられる内容について,学習者が当該学習内容に関する概念を全く持たないということは少なく,既に学習者自身の日常生活における諸々の経験を通して問題解決時の判断や推理の根拠となる概念を形成していることが多い。このような,自前で形成され,洗練されないままに留まっている概念は,素朴概念(naive conception),前概念(preconception),代替概念(alternative conception)などと呼ばれる。そして,これらはしばしば正しい概念と矛盾し,その場合,誤概念(misconception)とも呼ばれる。自然科学分野において,誤概念は非常に重要な問題であり,誤概念の保有は自然科学への正しい理解を妨げるため,正しい科学的概念への概念修正が必要とされる。しかし,誤概念は日常的な経験的裏付けを基に形成されたものであるため非常に強固で,たとえ理論的に誤ったものであっても,人々はそれを保持しやすいといわれる。物理分野の誤概念としてよく知られているものとしては,「物体は運動しているものから落下した場合,鉛直下向きに落下する」という直落信念(19)や,「運動している物体には,それと同方向の力がかかっている」というMIF(motion implies a force)概念(20)が挙げられる。これら以外にも,物理分野の様々な誤概念(21)-(23)が今日まで研究・報告されてきたが,衝突現象についての報告例はなく,筆者により調査を実施したところ,非常に多くの者がある誤概念を保有している実態が明らかとなった(24)。すなわち,図6に示すように球体が平面と斜めに非弾性衝突するとき,2.4で触れた内容から明らかなように,理論的には「衝突直前の球体の運動方向と平面がなす角度θ1」と「衝突直後の球体の運動方向と平面がなす角度θ2」は等しくならず,θ1>θ2となる。しかし,調査の結果,θ1=θ2と考える者が非常に多く存在することが分かった(以下,この誤概

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