3/2018
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表2 滑らかな氷表面に各種球状粒子を衝突させたとき   の反発係数(衝突速度は2m/s)-25-るとはいい難い。まず,反発係数が衝突前の運動状態に大きく依存することは既に多くの研究で示されている(8)-(14)。多くの場合で,反発係数は衝突速度の増加に伴い減少し,衝突角度や衝突時の回転に影響されることも指摘されている(15)。また,反発係数の大小が物質の表面状態に依存することも,誰もが容易に想像できるであろうし,更には,物体がその弾性の限度を超えた場合に塑性変形が起こるが,その影響も見逃せない。こうした様々な因子で反発係数が変わるということは,つまり,衝突時のエネルギー散逸機構が先に述べたように多様であるということである。例えば,荒岡らは,平面状の氷表面に各種球状粒子を衝突させたときの反発係数を,粒子の種類だけでなく,衝突速度などの関数として測定・報告している(16)。その中で,衝突速度が2m/sでは,表2のような反発係数になり,これらは衝突速度の減少と共に徐々に増加することを確認している。そして,反発係数に影響するエネルギー散逸の主な原因として,以下1)~6)を挙げている。平面上での非弾性衝突は決して理論通りの単純なものではなく,複雑な要因が各々関連し合っていることは,こうした例からも確認できる。1) 粒子と氷表面に生じる塑性変形2) 氷表面でのクラック形成3) 粒子が氷表面から離脱する際に働く付着力4) 粒子と氷表面の微細な凹凸の破壌5) 氷表面に液体状の薄膜が存在する時の粘性抵抗6) 粒子と氷塊全体の弾性振動2.5 理論的解釈の限界と危険性上述の通り,非弾性衝突では衝突により力学的エネルギーが減少し,その理由として,熱という形でエネルギーが散逸すると考える。しかし,エネルギー散逸原因をこれに限定するのは著しい単純化であるといわざるを得ず,本来であれば,衝突物体の内部摩擦や塑性変形,破壊,音などといった他のエネルギー散逸機構も考慮すべきであろう。とはいえ,仮に,これらのあらゆるエネルギー散逸機構を考慮しようとしても,そのうちのどれが支配的になるかは衝突物体の種類や運動状態に大きく依存するため,そもそも理論的予測に限界がある。こうした状況の中,初等物理の一般的な解説書では,エネルギー散逸の形態やその過程を一切考えず,反発係数というパラメータでエネルギー散逸の度合いを表現するに留まる(6)。例えば,衝突現象を初めて本格的に学び出す位置付けにある高等学校では,物体が床に落ちてはね返るとき,床の衝突する直前と直後の速さの比は,「衝突前後の速さに関係なく,物体と床の材質によって決まる」といった説明が,検定済み教科書の中でも見られる(7)。いずれにしても,初等物理における衝突現象に関する典型的な理論的解釈では,衝突現象の主体やその衝突状況は極めて理想化・単純化されており,非弾性衝突の理論的解釈も同様に理想化・単純化された状態での解釈となることが多い。勿論,条件の簡略化が理論的扱いを可能とし,更なる理論の進展に繋がることは古くから理解されてきたことであり,物理学やそれを土台にした工学などの分野における理想化・単純化の意義は否定しない。こうした意義を理解しつつも,実際の現象を解釈する際には,理論的解釈では大幅に条件の簡略化がなされているということを忘れてはならない。3.1 現実先に例示したように,反発係数は衝突する物質により決まる旨が初等物理の一般的な解説書で記述されているが,この記述は,事実を正しく表現してい3.平面上での非弾性衝突の実際

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