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図11 東日本大震災発生当日に仙台市消防局に   救急搬送された傷病者の地震・津波に起因する   事由別内訳家具や機器,外装材といった多種多様な「非構造部材」の被災対策は遅れているといわざるを得ない。平成に入って初めての大震災である阪神・淡路大震災では,負傷原因の第3位に「重いものの落下」が挙げられた(17)。また,東日本大震災でも同様の課題が浮き彫りになった。例えば,図11に,東日本大震災発生当日,仙台市消防局によって救急搬送された傷病者の「地震・津波に起因する事由別内訳(18)」を示すが,その6割が屋内外の非構造部材の転倒・落下に関連したものであることがわかる。南海トラフ地震を始めとする大型地震の発生が今後予想されている(19)状況下において,こうした「非構造部材による被災」に対する手立ては,喫緊の課題であるといえる。もちろん,「非構造部材による被災」に対しての手立てがなされていないわけではない。例えば家具の転倒防止であれば,L字金具,固定ベルト,突っ張り棒等により強度ある構造部へ固定することや,床面の間に耐震ジェルマットを挟むなどの手段が推奨されている。ところが,非構造部材は家具の他にも多種多様であり,こうした手段が適さない場面も多いであろう。九州大学では,「地震による非構造部材・実験機器等の転倒・落下防止対策に向けて」という,屋内外の各所で講じるべき転倒・落下策を整理したマニュアルを作成している(20)が,こうしたマニュアルからも非構造部材に対する対策の多様性が再確認できる。転倒・落下防止対策は,現状,「後付け」対策することが一般的であるが,本来であれば,非構造部材ごとに対策が事前組み込みされているか,少なくとも「後付け」対策を事前考慮して設計されていることが望ましい。-18-3.2 切り紙構造の適用可能性とその利点多種多様な非構造部材がある中,それぞれの非構造部材ごとに,デザイン面・技術面・原価面を考慮した適切な転倒・落下防止策があるはずであろう。そのための技術シーズの一つとして,筆者らは切り紙構造のポテンシャルに着目している。すなわち,図3(a)で示したような二段階構成の変形挙動に基づく非線形の力学応答特性を活かして,次のような機能が求められる部品に応用できないだろうか。〔平常時〕一定の引張荷重範囲内では,形状を維持し非構造部材を連結・保持する部品として機能。〔異常時〕大きな加速度を伴う地震により上記範囲を超えた荷重が突発的にかかった場合,破損せずに柔軟に伸縮し,連結部材の崩壊,そしてその後の転倒・落下という事態を回避。上記用途を考えたとき,切り紙構造ならではの利点を再認識できる。まず,サイズ面での利点である。例えば照明器具などの家電製品などで,元々組み込まれている部品に切り紙構造の加工を施すだけでよいならば,製品としての部品点数を増加させずに容易に機能を付与できよう。あるいは,仮に最低限の部品追加をせねばならないにしても,シート状材料の追加であれば,製品全体に対するサイズ面の影響度は少ない。次に,特性面での利点である。切り紙構造はその伸縮挙動からばねと類似する側面が大いにある。そのため,ばねは上記用途に供せないのかという疑問が出よう。そもそも,ばねには様々な種類が存在し,その力学応答特性は,大別すると,線形・非線形の二種類に分類される。非線形のものは,さらに,伸縮挙動が連続的で,なだらかな非線形曲線を示すものと,切り紙構造同様に伸縮挙動が段階的で,不連続な非線形曲線を示すものがある。後者の力学応答特性を示す代表例としては,不等ピッチばねが挙げられる。不等ピッチばねは,一つのコイルばねに,ピッチが大きい部分と小さい部分が併存する形状のばねである。荷重がはたらくと,初めはピッチの小さい部分が大きく変形し,ピッチの大きい部分はあ

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