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-13-実現手段がオペレーションの効率化で実現する場合,到達目標を最初から高く示さずに年当たり20%程度の目標設定が現実的である。非常識だと言う周りの識者に対しては,これでやればできるという現状認識力と明らかな戦略を示すことが必要となるが,これは具現化する具体的な工法(戦術)とエンジニアリング力(戦力)があることを見極めることが出来ているからこそ可能になる。イノベーションといわれる変革を起こすのは,現場で先頭にたって指揮する指導力があってのことである。3.4 コミュニケーション力ブランドで顧客に強みを伝える先行研究2)では,センスウェアの実践の場としてコミュニケーションがあるとしている。経営者が行う対外的コミュニケーションの相手は,顧客であったり,投資家であったり,業界との付き合いであったり,非公式な会合であったりする。社内とのコミュニケーションは,取締役会議であったり,朝礼であったり,各種会議であったりする。コミュニケーションは,感性と知性と心性が融合することで機能する。事例で取り上げたアーネストワンは,製造業とサービス業とを融合させることで,消費者と直結したモノづくりをしている。製造業とサービス業とが融合する垂直統合型ビジネスでは,サプライチェーンを一貫してコントロールできるため,ビジネスリスクを経営者が取る仕組みと,オペレーションの早さが重要になる。実現に当たっては,組織を高い目標に向けて奮い立たせる指導力が求められる。顧客とのコミュニケーション手段であるブランドづくりに取り組んだ。SAFE365で地震を吸収する家「QUIE(クワイエ)」(図12)というプロダクトブランドの構築に取り組んだ。「アーネストワンの家は質と,実」とのスローガンを掲げた。地震吸収力をもつ「SAFE365」は,エンジニアリング・ブランドで,プロダクトブランドを支えている。安心して住み続けることができる住宅性能を顧客に伝えることができている。6)モノづくりのサービス化によって顧客と直接的に3.2 戦略立案力戦術を把握したうえで戦略を立案する戦略立案力とは,経営企画力,戦術立案力,保有戦力の把握などを把握して,具体的に経営をどう進めるかの戦術を把握した上で戦略を立案する能力のことである。日本には戦略が無いと良くいわれてきたが,戦術に裏付けされていない戦略は,会社組織にとっては大変危険である。戦力といわれる会社の実力に裏付けされた具現力であるエンジニアリングがあっての戦略である。実行にあたっては,戦略会議の中で充分検討し,実現性を確認しなければならない。不動産業進出時の戦略コンセプトを「家を買えない年収層が買える住宅の販売」とした。賃貸より安いローンの支払いとなる戸建分譲住宅を機能・性能を落とさず,理想の居住空間を提供し,お客様から最高の満足を引き出すことに主眼をおいた。モノづくりを理解していたから,非常識と言われても,工期を3分の1にする目標を設定し,戦略を議論し,具体的な方策を立案することで,取り組めたといえる。作業者に工期を3分の1でやることを指示しても「非常識だ」と言われてしまう。現場改善に取り組むとともに,工法の開発にも積極的に取り組んできた。実際工期が半分になると,同じ仕事を半分の資金でできる。限られた資金を最大限に活用できることになる。購入資材を改善することで原価高になることもあったが,利益率より,工期の削減に取り組み,回転率の改善を重視する戦略をとった。3.3 指導力長期間ブレなく目標に向かって全体を誘導する指導力あるリーダーの下で,毎年くり返し,作業改善に現場が現場力をもって取り組むことでイノベーティブ目標へと導けるものと確信している。本稿2.5項で報告したように「オペレーションの効率化は戦略ではない」7)といわれてきたが,「工期短縮」という地道な生産性改善の先に社会変革を起こすようなイノベーションはあるといえる。長期に渡る全体を誘導する指導力が不可欠である。実際,イノベーティブな経営者の戦略目標は,

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