2/2017
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長岡技術科学大学は,社会人に対するシステム安全専攻(専門職学位課程)を有し,現に働いている技術者を中心とした安全に関連する者に対する教育を行っている。本稿では,その内容等を紹介して,安全教育について考えるための一助として頂ければ幸いである。労働安全衛生法28条の2が改正されて「危険性又は有害性等の調査等の実施」が努力義務化された平成18年に,長岡技術科学大学(以下,長岡技大)専門職学位課程システム安全専攻が設立され,15人の社会人の学生を受け入れるようになった。それまでも定員5人のコースとして4年の実績があり,国際的な安全の考え方や国際規格に沿った安全構築についての授業を行ってきたものを発展させて,専門職学位課程として設置した。現在は12期生まで迎え,修了生も100名を優に超える人数となっている。本カリキュラム修了者には「システム安全修士(専門職)」の学位が授与される。これは,カリキュラムにしたがって所定の科目を学び,安全に関する知見と実務能力を修得した証である。我々は,システム安全を次のように定義している。ハードウエア・ソフトウエア,人,法・規範などの複合体において,人間の誤使用や機械の故障などがあってもその安全を確-17-工学においては,古くから安全は重要視されてきている。例えば,機械工学科では,基礎である材料力学で,「部材にかかる荷重は,その材料の耐力(降伏点,引張り強度など適宜選択する)一杯ではなく,安全率で除した荷重迄とする」ということは,設計の基本として学ぶ。このように,個々の技術的な対応は行われてきている。また,わが国では,「安全教育を徹底して人の注意により安全を確保している,欧米では機械で安全を確保している」,と言われることがある。これは,ある側面を強調した言い方である。実際,わが国の労働安全衛生規則でも,「第二編 安全基準 第一章 機械による危険の防止第101~151条」において機械側で行うハード対策が規定されている。ただ,どこにカバーを設置するか,インターロックは必要なのか等をリスクアセスメントによって決定するという仕組みの面が弱く,安全設計にしても「法規に規定にあるか」を判断することになりがちだと思われる。一方,欧州では,1970年代頃から,危険や事故が起こる可能性のある場所は機械によって異なるので,それは機械設計者がきちんと調べ(リスクアセ保するためには,設計/製造/使用などライフサイクルのすべての段階で,危険につながる要因を事前に系統的に洗い出し,その影響を解析および評価して適切な対策を施す必要がある。これらを実行するために,安全技術とマネジメントスキルを統合的に適用する手法の体系を「システム安全」という。長岡技術科学大学 福田 隆文1.はじめに2.システム安全とは長岡技術科学大学における社会人向けシステム安全の教育

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