2/2017
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筆者は,安全衛生スタッフの力量いかんによって安全衛生管理・活動の活性化に大きな差が生じることをしばしば経験している。また別の側面から見ると,災害多発時代に災害発生率を目標に単年度ベースで活動してきた時代から,ハード対策などを主眼とした中長期的な戦略が必要な時代にシフトしていることも理由として上げられる。例えば,リスクアセスメントの結果,生産設備上で,はさまれ,巻き込まれリスクの高い箇所が50カ所見つかったとしても,すべてを一度にハード対策で対応するのはコスト的に現実的でない。少なくとも複数年のスパンで考えて,今年度はその内「○%改善する」という目標になるだろう。実は,この考え方は,現在開発が進められている,OSHMSの国際規格ISO45001でも見てとれる。ISO45001では組織内外の課題等の把握が要求されており,自組織に足りないこと(ギャップ)を目標に反映してスパイラルアップを図る方向性が示されている(図2)。すなわち,これからは,中長期な視点で安全衛生管理を進めていくという,安全衛生スタッフの力量が求められているのである。よって,安全管理者や衛生管理者,RSTトレーナー(職長教育の講師養成研修)など,安全衛生法令上必要な教育に加え,OSHMSやリスクアセスメント,機械安全(生産設備の安全),化学物質管理など幅広い知識を身につけることはもちろん,行政や業界,災害防止団体,同業他社などの情報を積極的に収集して,戦略を練るための力量を培う必要が-16-[1] 平成28年度 安全の指標,中災防,2016[2] 平成27年度 労働者災害補償保険事業年報,厚生労働省[3] 東京・大阪安全衛生教育センターHP [4] 国際安全衛生センターHP http://www.jisha.or.jp/facility/shec.htmlhttps://www.jniosh.go.jp/icpro/jicosh-old/japanese/country/uk/law/HealthandSafetyatWorkAct1974/index.htmlある。3.7 教育効果を評価するもう一つ忘れてはならないのが教育効果の評価である。これは日本においてこれまでウィークポイントになりがちだった点である。研修後に受講者に理解度に関するアンケート調査を実施することはあっても,それがうまく活用されるケースは多くなかったように感じる。安全衛生教育に熱心な企業では,理解度テストや,受講後の受講者の行動を上司が評価するなどのフォローを行っているところもある。忙しい合間を縫って複数のメンバーを集めて行う教育はある意味大きな投資である。評価結果をフィードバックさせて,教育のニーズの妥当性や,カリキュラム・教材・講師などの有効性の改善に活用して,教育の実効性を向上させるべきである。企業におけるこれまでの安全衛生教育を概観した上で,企業を取り巻く環境の変化,先取り手法へのシフトを考慮した上での安全衛生教育の力点の置き方について考え方を述べた。いずれにしても,企業においては今後ますます競争が激化し,取り巻く環境は厳しさが増す。リスクベースアプローチを主眼にして,成果につながりやすい教育にフォーカスして,資源を投資していくことが肝要と考える。図2 安全衛生管理における中長期的な視点の必要性<参考文献>4.おわりに

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