2/2017
16/60

いるが,実際にこの有効性が改めて認識されたのは,1999年にOSHMSが登場したことによる。また,その中核をなす活動として,災害につながるリスクを積極的に抽出して,あらかじめリスクを除去又は低減する取り組みにつなげるリスクアセスメントがある。すなわち,日本においてもOSHMSとリスクアセスメントの登場により,企業が自主的に先取りしてリスクに対処するという「リスクベース(ド)アプローチ」に大きく舵がきられたのである。3.2 リスクアセスメントの有効性リスクアセスメントは,一般的に,職場に存在する危険源を特定し,危険源によりケガが生じる可能性とケガの程度の組合せでリスクを見積り,評価して,優先順位を付けて,リスクの除去又は低減対策につなげるものである。この考え方により,これまで災害やヒヤリハットが発生した後に再発防止を行っていた,いわゆる「もぐらたたき」の後追い対策から,先取り対策へと大きく転換された。このリスクアセスメントは,重篤な災害につながるリスクの大きなものへの対策に資源を割り当てるなど,優先順位を付けて取り組めるという利点がある。また,これは製造現場だけではなく,生産設備等の機械メーカー側でも取り組まれるようになりつつあり,製造現場に導入される機械設備は,ユーザーの誤使用なども踏まえた安全な設計のものに変わってきている。具体的な統計や調査があるわけではないが,近年,死亡災害が減っている一因として,これら取り組みの成果があると筆者は考えている。3.2 リスクアセスメントの課題リスクアセスメントはここまで良いこと尽くめのように思えるが,実際は様々な課題も露見されている。リスクアセスメントでは,リスクの除去や低減のルールとして,①危険源や作業自体をなくすといった本質的安全対策,②危険源に接触しないように隔離したり,産業ロボットなどの危険源に接触する前にそのものを停止させるといったハード対策,③作業方法の改善や注意表示,保護具の使用といっ-14-たソフト対策,の順で対策を検討する「スリーステップメソッド」といわれる原則がある。これ自体は理に適った考え方だが,一方で,運用上,以下のような課題も生じている。1)本質的安全対策やハード対策にはコストがかかるため,一部のリスクに対してしか実施できない実情がある。2)多くの対策が人の注意に依存するソフト対策となるため,事に当たる人が常に実践しなければ安全が確保できない。3)リスクの抽出に漏れが生じる。4)ソフト対策であってもリスクが低減されているという意識になってしまう(顕在化されたリスクの潜在化)。上記を要約すると,リスクアセスメントは大きいリスクを主眼に,リスクの除去や低減につなげる有効なツールだが,その時点でリスクの除去や低減ができないリスク(残留リスク)が多数存在して,人の注意に委ねられている,ということである。3.3 リスクアセスメントと安全衛生活動リスクを管理することの多くがソフト対策にならざるを得ない状況にある以上,安全確保のためには,いかに人にルールを守ってもらうか,ということに尽きる。幸い日本では,4S活動やKY活動,パトロール,ヒヤリハット報告活動などの日常職場活動が実施されていることが多い。例えば,KY活動は作業前などに,これから行う作業について危険のポイントをメンバーで話し合い,安全な作業の進め方を確認することになるが,これはまさに残留リスク対応(ソフト対策)そのものになる。このように,日常職場活動はリスクアセスメントと密接な関係を持って,補完して進めることで,その実効性を上げることができる(表2)。3.4 リスクアセスメントによる合意の重要性リスクアセスメントでは,リスクを漏れなく抽出し,リスクの適切な評価や対策につなげるために,

元のページ  ../index.html#16

このブックを見る