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人や社会がより豊かに便利な生活を送れるよう,需要と供給のバランスを考慮して,さまざまな生産活動(物の製造だけでなく,広義の意味で,サービスも含めて,何かを生み出している活動)を行っていくことは至極当然のことである。しかし,生産活動を進める以上,そこに携わる人にはケガや健康に影響を及ぼす何らかのリスクが必ず生じる。生産活動に従事している人が,その活動を通じてケガや病気をしてしまうというのは自己矛盾であり,人命尊重という根源的な考え方からも,その活動の継続性という観点からもあってはならないものである。2014年10月に広島市で開催された第73回全国産業安全衛生大会は,中央労働災害防止協会(中災防)創立50周年の記念大会でもあり,ILO(国際労働機関)のガイ・ライダー事務局長からメッセージが寄せられ,「世界では,毎年,仕事で約230万人が亡くなり,3億6,800万人がケガで休業している」と報告された。日本の労働災害による年間の死者は,1961年の6,712人をピークに,2015年には972人と,ピーク時の約1/7まで減少している(図1)。しかし,休業4日以上の労働災害は2015年で116,311人[1],2015年度の労災保険の新規受給者数に至っては545,433人[2]にも及んでいる。死亡災害や休業4日以上の災害が横ばい若しくは漸減傾向にある中,労災保険の新規受給者数に至っては,2013年度から増加傾向にある。本稿では,安全衛生管理の取り組みの要諦の一つ-11-である安全衛生教育について概観するとともに,近年の企業を取り巻く環境の変化を踏まえて,今後の安全衛生教育の力点の置き方について,一つの考え方を示すこととする。2.1 安全衛生教育の体系企業で行われている安全衛生教育の体系は,大きく,法令に基づくものと,自主的なものの2つに分けることができる。2.1.1 法令に基づく安全衛生教育2012年に産業安全運動の開始から100年を迎えたように,安全衛生の歴史は古く,安全衛生関係法令においても様々な教育の実施が規定されている。表1に法令に基づく主な安全衛生教育を示した。労働安全衛生法,労働安全衛生法施行令,労働安全衛生図1 日本における死亡労働災害発生件数の推移(※1926~1927年,1939~1947年データなし)(1917年~2015年)(木村嘉勝)中央労働災害防止協会JISHA-ISOマネジメントシステム審査センター 森田 晃生1.はじめに2.安全衛生教育の現状と体系安全衛生教育の概観とリスクベースアプローチを踏まえたこれからの教育の力点

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