1/2017
54/64

みるべきだと言われており,コストの点でも演奏者の大きな負担となっている。以上のように,始めるには敷居が高く,続けにくいため挫折してしまう人も多い。実際チェロの演奏者数はあまり多いわけでなくチェリスト不足を訴える演奏団体も少なくない。また演奏者が少ないことにより起こる二次的な問題として,楽器や部品(弦など)の市場ニーズも小さいため価格が下がりにくい。またチェロを習うための教室も開かれにくく,特に地方では十分な教養が期待できない。こうして更に演奏者の負担は増え,チェロの演奏人口数の伸び悩みを解消することは難しくなってしまう。2.3 従来品による問題解決方法チェロの問題点を解決するために考案された商品はすでに開発され市販されている。代表的な例として「ミュート」と「エレキチェロ」の2つを挙げる。しかしながら,どちらも改善はするものの根本的解決には至っておらず,十分な対応策とは言い難い。そのためまずはそれら解決策の原理と効果,問題点の本質に関して考察を行った。2.3.1 ミュートによる音量減少の効果まずミュートについて詳細を述べる。弦による振動は駒と呼ばれる木製の支柱によって楽器ボディに伝えられ共鳴させることでその響きを豊かにしている。その駒を挟み込むように取り付け振動を抑制することで音量を抑えるのがミュートである。チェロ本来の音色をある程度保ったまま音量を下げられ,また安価で着脱が手軽なため広く普及している。しかしチェロは弦のみでも相当な音量を発生する。そのため駒の振動を軽減させるだけのミュートはその効果に対する評価は決して高くなく,実際測定すると約5~15dB減の効果しか望めない。また駒に直接取り付けるため,駒への傷や重さによる過負荷,外れた時に楽器を損傷するなどの懸念が付き纏うため使用を嫌う演奏者も多い。2.3.2 エレキチェロ近年では共鳴板を持たないエレキチェロが登場-52-している。駒の部分に圧電素子を設け弦の振動を検出・修正・増幅してスピーカから発音する仕組みを持つことから,楽器の構造や発音の仕組みはエレキギターに近い。共鳴板を必要としないためコンパクトに持ち運べ,音量調整が電子的に可能なため練習用として使用される[4]。しかしながら,弦を張っているため楽器ボディの長さや大きさは変わらず,前述のミュートと同様に弦自身の振動する音は発生してしまうため音量の抑制は十分とは言えない。また重量は約4kgとチェロと大差ないため運搬性にはやはり難がある。またチェロとしての再現性としては「別の楽器として認識した方がいい」との演奏家の評価が多く,チェロの代替とは成り得ていないようである。2.4 問題点の考察そもそもチェロは低音を含む広い音域を担う弦楽器である。弦楽器において低音を発するためには以下の3つの要素が必要となる。それは弦を長くすること,弦を太くすること,弦を張る張力を緩めることである。チェロはこれらの要素を踏まえバランスよく設計されており,人が演奏することを考えると今以上に最適化することは不可能だといわれている。しかしこれら3要素はいずれも楽器の巨大化,重量化,音量・振動の増大に寄与している。弦の長さによって楽器自体の長さも長くなり,強い張力(全体で約50kg)に耐えうるだけの強度を確保するための強靭なボディは重くなる。したがって,楽器の小規模化,軽量化は難しい。また弦楽器は弦が振動することで音を発生し,その振動がボディに正しく伝わり全体に響くことで美しい音色を生んでいる。音量を制限するには音の元となる弦の振動を抑制するのが最適な解決方法だが,元の振動を崩してしまっては美しい音色を生み出すことは難しい。楽器として最重要である美しい音色をつくるという事象と,音量を抑制するという事象はどうしても背反してしまう。すなわち,以上のことから,発音の原理としている“弦の存在”がチェロの問題の原因であるといえる。弦楽器である現状のチェロの発音方式では2.2

元のページ  ../index.html#54

このブックを見る