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図1 楽器のシステム図図2 シンセサイザのシステム図楽器)とすると,入力は“鍵盤を押す”という人間の動作と見なすことができ,出力は音を発生させるシステムとして描ける。すなわち楽器とは「人間の何らかの動作を音に変換する器具」と理解が出来る。では,電子楽器をシステム図で理解するとどうであろう。図2にシンセサイザのシステム図を示す。図1と見比べると,電子楽器をシステムとしたときの,入力である“鍵盤を押す”動作も,出力である“音が鳴る”現象もピアノの場合と同一である。アコースティック楽器と電子楽器の大きな違いは,人間の何らかの動作を音に変換する仕組みに電子回路を用いている点である。したがって,“電子楽器とは何であろう?”という問に対しての本質的な答えは“人間の何らかの動作を電子回路により音へ変換する器具”と言うことができる。1.3 誰でも新楽器創成時代近年,Makerムーブメント[9]のおかげもあり,マイコンや各種センサが非常に安価に,かつ,簡単に入手できるようになった。さらに,マイコンやセンサの使い方を学習しようと思えば,それについて書かれた書籍や,インターネット上の記事などにも簡単に触れることが出来る時代になった。また,FabLab[10]や各種FAB工房[11]などの流行により,3Dプリンタや,NCルータ,レーザーカッターなどのいわゆるデスクトップファブリケーションが使用-50-できる環境が整い,筐体設計や製作に関わる技術も一般的になった。前節で述べたように,“人間の何らかの動作を電子回路により音に変換すれば”電子楽器になるわけなので,発想さえあれば,誰でも新しい電子楽器を開発・発明する機会を持っている時代が到来したのだと言える。そこで今後,小生研究室にて開発してきた新しい電子楽器の開発,製作について連載していく。その中でまず第1回目として,2012年から開発され始め2015年にある程度完成の域に達した,弦の無いチェロの電子楽器である「無弦チェロ」を紹介したい。2.1 チェロとはチェロ(英名:Cello,Violoncello)とはヴァイオリン属の擦弦楽器である。楽器に張られた4本の弦に対して松脂を付着させた弓で擦り,弦を振動させ音を発生させる楽器である。弦の振動は駒によってボディに伝えられ増幅される。音域が広く,演奏者の技術次第では5オクターブ以上出すことが可能であるため楽曲の中で様々な役回りを演じられる楽器である。オーケストラや弦楽五重奏などでは低音部を担うことが多いが,ソロ楽器としても活躍することも多く,協奏曲やソナタが多数作曲されている。演奏方法は図3のように楽器を支えるためのエンドピンを床に突き立て,両ひざの間に胴の部分を挟みボディ裏上部を胸に当て安定させる。エンドピンには演奏時に楽器を支える役割の他に,床に振動を伝え共振させることで音量の増大や響きを豊かにする役目も担っている。2.2 チェロの問題点人気のあるチェロではあるが,演奏人口はいまだ少なくその数は伸び悩んでいる。またせっかく始めても続けられずやめてしまう人も多い。演奏団体でチェロを募集しているといった話をたびたび耳にする。それはチェロが演奏者にとって不便な点が多く,負担の大きい楽器であるためと考えられる。問題として以下の3点が挙げられる。2.無弦チェロ開発の背景

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