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4.技能伝承を受けて図9 技能伝承の様子図10 切削工具研削作業の様子ラン指導員との横の繋がりを持つことが,若手指導員の大きな心の支えとなる。ベテラン指導員から若年世代の指導員へと技能を伝承させるためには,被継承者が実際に作業を従事しながら習熟させる方法が第一に挙げられる。しかし技能には,ベテラン指導員が経験則的に体得したものなど,暗黙知的な性質を有するものがあり,その継承に多くの時間を費やす。このため,個々の技能の体系化・可視化・定量化したのち,被継承者への理解を促すことが必要とされる。顔ねっと機械加工では,技能伝承テーマである旋盤作業において,体系化・可視化のためにカリキュラム作成,およびテキスト作成を行った。このテキストには,指導の統一化や理解度促進を目的として,多数の写真や動画を作業者目線で撮影し,細かい作業のポイントも記載した。-7-しかし,実際に作成したカリキュラムとテキストを用いて指導を行ったが,受講生が持つ前提知識,経験値,および受講目的の差により,ベテラン指導員のような受講生に応じた実技指導を実施することができなかった。その結果,作業の手法・手順の違いによる加工精度や加工時間への影響の説明や,加工時の不具合への対処方法などについての説明ができなかった。ここには,若手指導員はベテラン指導員と比べ,個々の作業における技能の質の差だけではなく,加工プロセス全体の流れを想定しつつ個々の作業時に起きうる予測の把握が不足していると思われる。すなわち,共通したカリキュラムを実施しようとした場合,指導員はテキストやカリキュラムの充実化や共有化だけでは不足であり,テキストで表現が困難な暗黙知的な熟練技能や,より実践的な技能を習得し,個々の作業技能に対して取捨選択できる技術と技能を身につけることが必要不可欠である。近年のコンピュータ,NC工作機械,およびCAMの発達により,熟練技能の一部を数値化することが可能となってきた(2)。また,熟練者の手先の感覚や音・振動等からの判断による加工状態判断や不具合予測などの熟練技能を定量化・体系化し,技能習得の短縮化に寄与する試みもみられる(3)。職業能力開発施設において,ベテラン指導員がもつ機械加工に関する「勘」の数値化や熟練技能の体系化には,多くの時間を費やすことであり,早急に取り組むべき内容であろう。しかし,技能は一朝一夕で習得できるものでなく,長年の自己研鑽により培われるものである。ベテラン指導員の大量退職が進んでいる現在も,若手指導員は熟練技能をベテラン指導員から直接指導を仰ぎ,「五感」を通じて習得したのち,後輩指導員,あるいは受講生に対して伝承しなければならない。さらには,技能伝承における「五感」を「五感以外で伝承する手法」も検討し実施する必要がある。そして,技能者が集う職業能力開発施設として,企業から信頼され,企業の人材育成と技術向上に貢献する必要がある。

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