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図1 典型的な摩擦の問題福島県立テクノアカデミー郡山 髙木 智士中国職業能力開発大学校 高山 雅彦筆者らは高卒を対象とした学卒訓練に従事している。ものづくりにおいて物理学は重要な科目であるが,本稿はその中でも身近な物理現象の一つである「摩擦」についてとり上げてみる。ものづくりにおいてねじは重要な機械要素である。ねじの締め付けの例を挙げるだけでなく摩擦は最も身近な物理現象の一つであり,我々の生活は摩擦により支配されている。例えば摩擦がなければ立つことも歩くこともできない。静電気や熱の発生など摩擦は非常に馴染み深く工学的に重要であり,実に多様な様相を示す複雑で興味深い現象であるといえる。摩擦の歴史は古くピラミッドの古代から重い物体をいかに効率よく移動させるかという観点で研究されてきたが,現在でも未解決の基礎的問題も多い。また,摩擦のスケールは,我々の日常生活を基準にして考えれば,地滑り,氷河の運動という地球規模の大きなスケールから,金属や半導体表面のマイクロからサブナノスケールの界面に及ぶ。このように広い範囲で摩擦は現れるが,そこにはスケールによらない普遍的な現象がある。最大静摩擦力と,動きに伴うエネルギー散逸に起因する動摩擦力の存在がその典型例である。滑りと固着を繰り返すスティック・スリップ運動や静摩擦力に現れる記憶効果,動摩擦力の速度依存性も,スケールによらず現れる[1]。幅広い摩擦現象をできる限り統一的観点から概観してみよう。あらい水平な面上に質量1kgの物体を置き、水平方向に加えた力Fを徐々に大きくしていった。静止摩擦係数を0.60,動摩擦係数を0.50とする。(1)Fが10Nであるときの静止摩擦力の大きさ求めよ。(2)物体が動き出したときの力Fを求めよ。(3)物体が動いているときの動摩擦力の大きを求めよ。-24-まず典型的な以下の図1の問題をご覧頂きたい。図1の問題は力学のテキストでよく目にする問題である。この問題の中に出てくる静止摩擦係数,動摩擦係数の本質がいったいどういうものなのだろうか。しかしこの本質を解説してくれる初等物理の教科書はほとんどない。なぜならば摩擦の問題は二つの物体間に働く力をマクロスケールでとらえて説明しているからである。もちろん実際の物理問題を解く場合,マクロ問題として扱うほうが簡単ということもある。一般的に物体はミクロな構成要素である原子が集積して形成されている。では摩擦力を原子のスケールまでさかのぼって考えるとどうだろうか。初等力学で扱う摩擦力はミクロな領域に立ち入ることなくマクロな領域での現象を整合的に説明するために現象論的問題のクーロンの摩擦法則として1.はじめにスケールの違いから摩擦を考える

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