3/2016
21/38

図表1.八反原太陽光発電事業スキームが一気に加速した。この制度では,FIT買取り価格(2012年度42円,2013年度37.8円,2014年度34.56円/1kWh)という事業者側において魅力的な買取り価格設定が大きな要因となり全国各地では,メガソーラーの導入計画が進められている。こうした中,わが国で,最も早く計画されたのが,2012年6月,株式会社東芝(以下,「東芝」)の福島県南相馬市内のメガソーラー事業である。本プロジェクトの概要は,出力10万kW,年間1億5千万kWhで,一般家庭3万世帯分の電気を賄える国内最大規模のメガソーラー発電設備である。本案件については,複数の太陽光発電機器メーカーが受注に向けて名乗りを上げる中で,東芝が本プロジェクトを受注した。その主な理由は,現地の発電事業を行うSPC(特別目的会社)を自らが建設し,電力サービス事業も含めた提案を行ったためである。この東芝がとった電力供給事業も含めたサービス運営戦略は,本プロジェクトの建設コストである300億円を顧客側に負担させるのではなく,現地の発電事業を行うSPCを自らが建設・運営することで運営から創出される利益で建設コストを賄っていくという金融事業のスキームを構築していることである。このケースにおける東芝の競争優位要因は,太陽光発電設備(メガソーラー)のハードそのものの価値の高低ではなく,金融事業のスキームの構築から提案という太陽光発電事業全体のバリューチェーンの前工程と,実際に電力供給事業で地道に利益を出していく事業運営や設備の保守メンテナンス等の後工程における価値の優越が決定要因となっている。また,東芝に先を越されたライバル企業である株式会社日立製作所(以下,「日立」)では,その後,茨城県日立市で建設される八反原太陽光発電所(土地面積2.15ha,日立所有地)に1.8MWのメガソーラー事業を同様のスキームで展開している。この事業スキームは,図表1の通りである。このモデルは,日立グループ企業である日立キャピタル株式会社(以下,「HCC」)の子会社が発電事業者となり,経済産業省から設備認定を受け,電力会社(東京電力株式会社,以下,「東電」)との特定・接(出所):筆者作成-19-続契約を締結し,地権者である日立とは土地の賃貸契約を結ぶ他,機器製造と工事施工にあたるEPCとO&Mを行う事業契約となっている。本プロジェクトの特徴は,地元有力企業がコミュニティ全体の主導権を持っている企業城下町型の建設モデルであり,日立グループ企業であるHCCの子会社が発電事業者となり,いわゆるSPCの役割を担っているケースである。この事業のプロジェクトマネージャーによると,太陽光パネルや設備関連の生産者側のバリューチェーンは,図表2の通りである。これは,従来M.E.Porter(1985)[1]が提唱する製造業の競争優位の源泉とされていた「機器システム(購買物流→製造→出荷物流→販売マーケティング→サービス)」といった,製造ポーションでの価値追求だけではなく,むしろ,この上流部となる「計画選定→買取制度申請→ファイナンス支援」と,下流部の「事業運営」といった顧客の先にあたる顧客に価値を提供するといった事業全体のバリューチェーンを見据えた提案の有無が受注の決め手となっており,図表2の様なバリューチェーンモデルを提示することができる。2.2. 風力発電事業のサービス事業本章では,日立グループが取り組む風力発電事業をサービスイノベーションの観点から考察する。日立ウィンドパワー株式会社(以下,「HTW」)は,日立グループが風力発電事業に参入するため,

元のページ  ../index.html#21

このブックを見る