2/2016
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専門の校であろうと国立や県立などの公的機関である場合が多く,合理的配慮の提供は義務である場合がほとんどであることが考えられる。さて,障害のある職業訓練受講者に対し合理的配慮を提供しなくてはならないということについて,一般論として了解できる読者は多いだろうが,それでも具体的に考えていくと検討すべき点が未だにあるように思われる。まず,障害のある訓練生の合理的配慮の要請に対し,職業能力開発校側が変に「構えてしまう」という事態の発生が想定される。実は合理的配慮の提供ということ自体は全く目新しいものと捉える必要はないのかもしれない。すなわち,これまでも障害のある訓練生を受け入れるための工夫や配慮ということは個別に現場で行われてきたと考えられる。ただし,法的裏付けができたため,今後は障害のある訓練生と必要な配慮について相談し話し合い決めていくということを組織としてきちんと行っていく必要があるということである。公的機関として,障害の訓練生の合理的配慮の要請に対応できる体制作りが必要となる。また,一般校での一般離職者等を対象とした職業訓練は集合形式で行われることがほとんどだと思われるが,その中で障害のある訓練生に対し個別に配慮をすることに,他の訓練生から十分な理解が得られるのかという懸念から,合理的配慮の提供に慎重になってしまう場合もあるかもしれない。例えば,通常は手書きで仕上げる課題を上肢に障害のある人にはパソコンを使ってもよしとする合理的配慮について,「不公平だ」と感じる障害のない訓練生もいないとは限らないviii。このような場合に,どのように理解を得るのかは検討すべき課題である。また,逆にこのような周囲の理解不足を恐れて合理的配慮の申し出を控えてしまう障害のある訓練生がいないかどうか,職業能力開発校側としてはよく留意する必要があるのではないかと考える。4.2  発達障害の存在が「疑われる」一般訓練受講の訓練生への対応現在,発達障害が疑われる学生が高等教育段階で-6-も多く存在することが知られるようになり,またどのように教育機関として対応・支援すべきか多くの議論がなされるようになってきているが(たとえば特別支援教育総合研究所,2015),それと同様のことが職業訓練分野でも指摘できるのではないかと考えられる。特に地方の職業能力開発校では,定員が必ずしも充足しやすいとは限らず,そのために入校の基準も緩やかになる場合があり,発達障害等の可能性が疑われる訓練生が入校するという場合も発生しているとのエピソードも耳にする。本来ならば,障害の有無に拘わらず入校の基準に達していなければ(もちろん障害のある人から申し出があれば入校試験時点での合理的配慮の提供が必要不可欠となるが),入校を認めないという対応を取ることが可能かつ必要である。しかし,定員割れ・施設の稼働率ということを考えると,そのような訓練生でも受け入れざるを得ないという状況もあるようである。その結果,受け入れることで集合形式での訓練運営が困難となったり,就職支援あるいは進路指導に校として大変な苦労をする場合もあるとの話を,職業訓練指導員研修受講者より伺ったことが筆者にはある。また(障害の存在を自覚していたり診断をされていても)障害があるということを入校時点で伝えていない人や,さらには障害の存在自体を自覚していない人もおり,そのような場合,当然ながら合理的配慮の提供ということが難しくなる場合もあるだろう。根本的な解決策としては,入校時点での適切かつ公正な選定を実施することではあろう。ただし,さらに言えばその前段階の,ハローワークや学校在学中での適切な進路指導・職業ガイダンスということが必要だろう。そして,そのためには関係機関との連携が必要となる。また,入校した場合の適切な対応ということについても,ノウハウを蓄積していく必要があるだろう。「訓練・学習の進捗等に特別な配慮が必要な学生への支援・対応ガイド(実践編)」(高齢・障害・求職者雇用支援機構職業能力開発総合大学校基盤整備センター・障害者職業総合センター,2015)も出されているが,さらに知見を蓄積する必要があるだろう。

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