2/2016
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できるだけ具体的に解説するようにしている。それにより生徒自身の職業観を高め,就職挑戦の意欲を植え付けさせることができるからだ。後者の就職相談では,私なりの流儀とも言える「その場完結」を心掛けるようにしている。若者の本離れや作文力の低下が指摘されるようになって久しいが,こうした傾向は何も若者だけではない。社会経験の豊富な方であっても,いざ,応募に臨む志望動機や自己PRを書こうとしても,思うように仕上がらないで悩む方が何と多いことか。それに対して,「ここの表現をもっと具体的に」,「あなたの魅力を引き出すように表現して」と指摘するのは簡単だ。ただ,それができないから添削を求めてきているのが現実なのだ。それを理解すれば,面談のその場で迅速かつ完全なる添削をするのがプロとしての就職支援ではないか。そうした事情からこの「完全添削」を実践するようになった。完全添削の背景には具体論を浸透させたい思いもある。志望動機を例に取ると,従来の就職支援の教科書では,「これまでの経験を活かして貴社に貢献します」程度で済ませているケースが何と多かったことか。残念ながら,これでは今の時代にはそぐわない,と感じている。そもそも,応募職がどんなもので,どれだけ厳しいのか,応募職のどこに魅かれたのか,これらをきちんと把握することがとても重要だと考える。その上で,なぜ応募決意をしたのか,自分の思いや動機をきちんと述べ,入社したらどう取り組むつもりか,能力向上を含め,自分の考えをわかりやすく表現しなければ求人側の心を掴むことは到底できない。当センターの場合,新たな職に就くための技能・技術の習得に1年,6か月もしくは3か月の期間をかける。ほとんどが異業種への応募となる。それを踏まえると,「貴社に貢献する」といった,上目線的な表現をするのはいかにもおこがましい気がする。即戦力には至っていないケースがほとんどなのだから。近年,景気が持ち直しつつあると言われる。とりわけ2020年の東京オリンピックという一大イベントを控え,建設業界,情報処理・福祉関係などの求人-40-需要が急激に高まっている。それを裏付けるかのように,厚労省の労働に関する統計でも,求人者数と求職者数の比率である有効求人倍率が飛躍的に向上し,就職しやすくなったと盛んにPRされるようになった。それはそれで素晴らしいことであるが,たとえ有効求人倍率がどれだけ上がろうとも,就職は応募者自身の中身である資質とスキルを求人側がどう評価するかで決まる。酷な言い方をすれば,一定のレベルに達していなければ決して採用には至らない。ここに就職支援の存在する意義がある。職業訓練でどれだけスキルを身に付けたとしても,相手に理解されなければ絵に描いた餅になる。そのためにも,応募書類や面接で及第点を取る必要があるわけだ。私はこれを自己プレゼンと呼んでいる。つまり,就職に向けた自己プレゼンをいかに高めるか,これが最も大事な点である。この自己プレゼンであるが,必要なのは何も求職希望の生徒だけではない。求人側にも当てはまる気がする。求人票を見た生徒が,そこを受けようと思うには心に響く何かが必要だ。私は次の3点がポイントだと感じている。(1)企業の魅力(2)将来の職務面での発展性(3)能力向上に向けた資格等の奨励まず(1)の会社の魅力だが,会社の特徴欄には,どんな分野に強いのか,他社差別化の技術力は何か,などが必要だ。それらの魅力が明確になっていなければ,この会社に入ろうかな,とは決して思わないだろう。次に(2)の将来の職務面での発展性であるが,自分の人生設計にも大きく左右するので,大きな関心ごとになる。当面は現場作業員からスタートしても,5年後,10年後には責任者としての仕事が任せられる,そうしたシナリオが読み取れることが大事だ。仕事に責任とやりがいを持てるようになれば待遇面でも向上することはまちがいないからだ。(3)の資格等の奨励はどこの企業でも当たり前に取り組んでいることだが,記述していない場合も散見される。これでは読む方には伝わらない。やはり

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