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東京都立城南職業能力開発センター 工藤 孝之過日,「内定しちゃった」と,いきなり歓喜あふれたAさんの声が私の背後から飛び込んできた。職員室でおにぎりをほおばっていた私は,振り向くと同時に思わずハイタッチしたいほどのうれしさが込み上げた。その2週間程前になるが,OAシステム管理科生徒のAさんが就職相談にきた。1枚の求人票を大事そうに抱えていた。その求人票を見せられた時,はっとした。最近,受理したE社の求人票で見覚えがあった。来所されたE社役員の方と面談した際,中身について助言を求められた。何とも雇用条件が素晴らしかった。初年度から通常の2倍を超す年収を明記していた。当然,要求レベルも高い。年収にふさわしく提案型ビジネスができる人を求めていた。そこで,私は,応募職の魅力を最大限に引き出せるストーリーにしたらどうか,とAさんに提案した。すなわち,システム提案から仕様分析,設計,プログラミング,検証,運用まで一体化した業務に取り組むことができるなんてどんなに素晴らしいことか。特に初期のシステム提案こそが決め手で,これが価値の高い仕事を生み出し,同時に技術者としてのステップアップにどれだけ寄与するか,というストーリーを盛り込もう,と。Aさんの瞳がみるみる輝いたのを覚えている。Aさんの本気度を確かめた後,私は生半可な就職支援では内定を得ることができないと判断し,用意周到に対策を練った。応募書類の質を上げることはもちろんだが,何よりも面接攻略に知恵を絞った。-39-Aさんと一緒に具体的な目標を示したプレゼン資料までつくった。5年後には年収の5倍を稼ぐシステムエンジニアになる,そのための行動計画と,根拠となるビジネスモデルを準備した。役員面接で,そうしたシナリオに沿った話をした途端,社長さんの顔色が急に変わったので驚いたよ,とAさんの目が潤んだ。私も思わず貰い泣きしそうになった。これだから,就職支援の仕事から離れられないのだ。自身が改めて仕事の喜びを実感した瞬間でもあった。現在,私は都立城南職業能力開発センター(当センター)で,職業訓練生に対して就職支援をしている。大事な役割に,事業主との対話による質の高い求人票の入手がある。次に,いやそれ以上に,就職を求める生徒の思いを,どうしたら求人側に伝えることができるか,その本質に切り込んだ就職支援に精一杯の情熱を注ぐ。改めて申すまでもないことだが,ここにいる生徒達は皆,自分に合った最高の就職先を求めて入校して来る。就職が人生設計にどれほど大きく影響するかは誰もが知っているはずだ。それを念頭に置き,連日,就職支援に際しては真剣勝負で取り組むようにしている。就職支援の主な機能は,職業講話と就職相談である。前者は入校した後,比較的早い段階で行っている。私の場合,職業講話では一般的な職業ガイダンスだけでなく,訓練科目に応じて,その職務がどんな魅力を持っているか,求人側が何を求めているか,内定しちゃった今の時代の就職支援に求められること笑顔がつながる就職支援に乾杯

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