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<参考文献>服部はサービス的な要素については機能的要素群に収斂されるとしており,物的要素群や創造的要素群についてもほぼ網羅している。あとは人的要素群における対応を具体的にすればホスピタリティ性を向上されることが可能であると考えられる。では,どのようにすれば機能的な対応から脱却し,人的な対応を施すことができるのか。ホスピタリティ性とサービス性の追求要素の差異を表3の通りまとめた。鉄道業界においては人的要素群を網羅させることは難しい。業務によっては顧客に殆んど出会うことがない部署が多く,顧客に実際に対応する部署が限られるからである。それでも,鉄道も単なるインフラとしての役割だけでなく,観光要素としての役割もある。また,少子化や通勤利用客の激減により,鉄道業界の利用度を今後飛躍的に上昇させることは至難の業である。それを鑑みると,人的な対応向上は必須である。主に旧ソビエト連邦を中心とした旧社会主義諸国には,8歳から15歳程度の少年少女たちが鉄道を専門的に学習するための教育機関として「子供鉄道」というものが存在する。子供鉄道の主な構成要素は,若い鉄道員たちにより,通常は夏のあいだ運営される狭軌の鉄道路線であり,1年の残りの期間は子供たちの理論教育が行われる。子供鉄道は基本的にインフラにはなり得ていないが,原型となる鉄道と同様の運行形態を施し,本物の鉄道と同じ設備が用いられ,その運行上の規則も,一般に使用される鉄道のものに可能な限り近づけられている。これらを通して人的・物的・機能的な教育が行われる。日本で言えば自転車や自動車の運転や規則を学ぶ交通公園での営みを,大掛かりに行ったものであろう。これらのように,日本においても鉄道を中心に教育を行い,そこでの人的な対応のシチュエーションを体系的に学ぶと同時にロールプレイイング,障がいを持った方やお年寄りなどに対するサービス介助体験などを積んでいけば,鉄道だけではなくあらゆる現場でも対応が応用でき,社会教育としても有効であると考えられる。近年鉄道関連の関心が高まっており,首都圏と京阪神に相次いで世界有数の鉄道-25-崎本武志『日本の鉄道業界における職業能力養成とホスピタリティ・マネジメントに関する一考察』〔2015〕 2015年度職大フォーラム予稿・職業能力開発総合大学校嶋田郁美『ローカル線ガールズ』〔2008〕メディアファクトリー寺坂今日子,稲葉祐之『社会科学ジャーナル』78〔2014〕 The Journal of Social Science 78[2014]pp. 85-120国際基督教大学紀要服部勝人『ホスピタリティ学原論』〔2004〕丸善博物館が建造される。日本においても子供鉄道の誕生を待ちたい。本稿においては,鉄道業界においての業務教育に関して必須と考えられる,ホスピタリティ・マネジメントについて考察した。服部によるホスピタリティ理論に照らして考察すると,鉄道業界においてはサービス的な要素は網羅されているが,人的な部分についての対応に大きな伸びしろがあると考えられる。即対応は困難であるが,社会的な取り組みとすることで表3に示したホスピタリティ追求要素に足るサービス・ホスピタリティを実現させることが可能であると考えられる。子供鉄道はその一例であるが,鉄道が注目されている現在,大きな好機であると考えられる。まずは勤労型テーマパークや交通公園での教育など,できるところから始めていくことが重要であると考える。これらの実現に期待したい。謝辞本研究は「研究種目(基盤研究C)研究課題(温泉地における長期滞在モデルの構築に関する研究)代表者:内田彩,課題番号:26360085」による研究成果の一部である。5. まとめ

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