2/2016
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語源的にも,宿泊を引き受ける館が「Hotel」であり,傷病者を引き受ける館が「Hospital」であることをみても,Hospitalityの派生的な解釈が鉄道業界と関係があると考えられる。それに対して,カントが唱えた「世界市民法」からみた「歓待」の概念によると,普遍的かつ一般的なHospitalityの起源である「主人と客人」「訪問者と滞在者」という関係性が「博愛に満ちた歓待」ではなく「権利」として定義づけられている。世界市民法の権利とは,外部の人間が他人の土地やテリトリーに足を踏み入れたときに「敵」としての扱いを受けず,歓待され厚遇を受ける権利を有することであり,これはHospitalityとServiceの関係性に派生している。つまり,Hospitalityに普遍的かつ一般的な価値が付与されることにより,その権利に公平性が求められるようになったことから,「ホスピタリティ」は「サービス」と並立したものとして考えられるようになっていった。Serviceの語源は,直接的には「奴隷」を意味するservus(ラテン語)から来ており,ServantやSlaveも同義語である。それが長じて「奉仕行為」全般を意味するようになった。3.2  日本におけるホスピタリティの解釈日本とは大いに異なり,キリスト教に基づく習慣に根ざしている欧米でのHospitalityの考え方における特徴的なもののひとつは「弱者救済」であると考えられる。欧米のホテルと日本の旅館の接客の相違点としては,欧米が個人的な行動の自由の尊重であるのに対し,日本はシステム全体で顧客の世話を行うことが挙げられる。これが日本流の「おもてなし」の姿であるが,これは「おもてなし」(持て成し)の裏の本義である,「持て成す側にとって都合の良い形で接客を行う」という,「プロダクト・アウト型」のサービス提供スタイルを体現したものであると考えられる。しかし,これは欧米における弱者に対する考え方と日本での考え方の相違点であり,このことが日本-21-のサービスのあり方に関する満足度が果たして海外からの訪問客に通用するものであるか,考察する必要があると考える。弱者救済に的を絞って考察したときに,欧米では「バリアフリー⇒ユニバーサルデザイン」のように,弱者を救済するためのインフラを構築するのに対し,日本では「助けず急かさず」のように弱者の自助努力を見守り促す精神が働いているといえるだろう。これは,日本のもてなしの特徴である「一期一会」によるものであると考えられる。日本のもてなしの特徴のひとつは,茶道により確立された交際礼法にある。根幹は「一期一会」であるが,具体的にどのようにするか?という点においては特に答があるわけでは無い。ただ「心を込めて行う」のみとされてきた。これが「技」ではなく「心」とされており,これが日本におけるおもてなし,ひいてはホスピタリティ・マネジメントがマインド論を中心に展開されてきた所以であると考えられる。但し,日本においてもおもてなし,ホスピタリティを体系化する動きが勃興しており,これらの継承を可能にするための解釈が進んでいるのも事実である。3.3  ホスピタリティの構成要素に関する一考察服部(1994)は,ホスピタリティを構成する4大要素群を挙げた。具体的には,(1)機能的要素群,(2)物的要素群,(3)人的要素群,(4)創造的要素群,の4つである。これらの要素群は表1のように整理することができる。服部は,その後改訂を続ける過程の中で2008年には最適共進要素群を加えた5大要素とし,現在に至っている。大規模な機器装置産業であり,操作業務や電気機器および建造物の製造,維持が主流を占める鉄道業界における業務については,機能的要素群での内容が基盤をなしている。これを充実させるための要素群として,人的サービスにおいては人的要素群が,物的サービスにおいては物的要素群が,それぞれ存在する。そして,鉄道会社経営・運営をより軌道に乗せ充実を図るために創造的要素群が存在する。鉄道業界における最適共進要素群は,最適な環境

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