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[3]『職業訓練実践マニュアル 発達障害者編Ⅱ〜施設内訓練〜』独立行政法人高齢・障害・求職者支援機構 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター,2011。図3 事例2における支援経過<参考文献>できた。そこで,対策として自分のペースで良いので,与えられた課題に対して集中して取り組み,今日はこれができたと言えるものを持ち帰ろうとBさんに提案した。この提案がきっかけとなり,Bさんの受講態度は一変し,意欲的な姿勢が出てきた。② 関連性を確立し支援する工夫それからは教えることが中心の指導から,自ら学ぶ姿勢を尊重する学習支援が中心の指導になった。課題ができていない場合でも,どのように課題に取り組んだのかを確認し,できているところを伝え,Bさんからの質問に答える形で時間を使うようにした。結果として,作業に集中できるようになり,課題のミスも減少していった。 ③ 自信を構築する工夫少しずつできることが増え始めると,受講開始時は難しいと思われていた日商簿記3級合格を目標に自身で取り組むことができた。合格するためには,あとどれだけの知識・技能を習得する必要があるかを理解できるようになっていた。目標が明確になり,Bさんからは目標達成に向けた意気込みが感じられるようになった。④ 満足感をもたらす工夫職業訓練に対し意欲的な姿勢が出てからも,雑談から始めることを続けた。これは私とBさんとの信頼関係を築く大事なコミュニケーションになった。笑顔で話すことが多くなり,以前とは見違えるよう-19-[1]稲垣忠・鈴木克明『授業設計マニュアル』北大路書房,2011。[2] J.M.Keller,鈴木克明訳『学習意欲をデザインする』北大路書房,2010。な集中力で作業に取り組むようになった。そして当初は無理と思えていた目標に挑戦することができた。結果,数点足りずに合格には至らなかったが,Bさんにとって大きな自信となり,挑戦して良かったと思える学習体験となった。図3は,事例2における支援経過である。その後Bさんは,合格できなかった悔しさをバネに新たな目標に向けて意欲的に職業訓練に取り組んだ。本稿では,動機づけモデルであるARCSモデルについて吉備リハでの訓練事例を交えて紹介した。事例1では,これまでの障害特性を踏まえた支援の取り組みが,ARCSモデルと照らし合わせ,整合性があったことが確認された。事例2では,ARCSモデルをもとに4段階での支援を実施し,期待する効果が得られ,ARCSモデルの有効性についてより明確になった。今後も活用していくことは有効である。発達障害や精神障害などの配慮を必要とする受講者の場合,技能習得や就職活動の場面でさまざまな困難性をもたらす。今回紹介したARCSモデルはこれらの問題解決に一石を投じるものであり,今後の活用が期待される。ARCSモデルは最後に満足感が得られる仕組みになっているが,この満足感は学習者だけでなく指導員のやって良かったというやりがいにもつながり,様々な工夫をしたことで指導員自身の成長にもなっていると感じる。今後もARCSモデルを念頭により質の高いサービスの提供に向けて指導・支援していきたい。5. おわりに

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