2/2015
6/60

名刺の加工風景<参考文献>隠してしまいたくなる衝動は,今後も改善することは難しいだろう.大事なことは障害を克服することではなく,そのような状況を乗り越える術を身につけていくことだ.何事もないままでは,乗り越える訓練ができないと考えるならば,実習中に起こったトラブルは,良い教材になる.この時は,翌日の朝礼で社内の人たちに,会社を飛び出されて残された人はどう感じたかを話し合ってもらった.会社を飛び出した当事者は,自分のミス(実はこれは勘違いだった)のことと,その場から逃れることで頭が一杯だった.しかし翌日,冷静になったところで周囲の声を聴くことで,失敗と自分だけでなく,残された周囲の人に心を向けることができた.皆,心配していたのである.話合いの結果,しばらく席を外したくなったら,一言声をかけてから外出して欲しい,ということになった.このような経験を振り返り,何度もシミュレーションをすることにより,次に同じことが起きた時にその経験を生かして対処できるだろう.実習は何事もなく終えるのが良いのではなく,試行錯誤を学ぶ場である.これを,実習生,受入れ企業の双方が理解し,ゆったりとしたペースで学んでほしい.当社では実習生への業務指導は,いままでその業務を担っていた社員が担当する.特に管理職ではなく,一番経験の浅い社員だったりする.実習生がいる間に,次の実習生が来ると,先輩実習生が後輩実-4-1)東京中小企業家同友会http://www.tokyo.doyu.jp/習生に教えることになる.この「人に教える」という体験は,人を大きく成長させる.特に,いつも誰かの支援の下にいた,受け身が多かった障害者にとっては,なかなか貴重な経験になる.当社ではそのような場面がよくあるが,教える立場の実習生や,障害のある当社社員の,こちらが予想していた以上の指導する力に驚かされる.人に教えるには,自分が理解していることが不可欠なので,内容をよく確認するようになるし,申し送り事項を自ら作成し掲示するなどの工夫をするようになる.当社の社員が,指示待ちではない,自立型社員に成長していったのは,確実に実習生の影響であった.法律で障害者の雇用を義務づけられている規模の企業ならいざ知らず,当社のような中小零細企業が実習受入れをするには訳がある.それは,普段は忘れがちな「働く」ということの本質を感じることができるからだ.健常者にとって,労働は当たり前で,多くの人にとっては日常生活である.仕事に対する意欲を高く持ち続けるのは,なかなか難しい.そこに,働くことに困難な人が入ってくると,どうなるか.ある実習生は,精神の病を発症して,数年間療養した後,当社にやってきた.給料をもらえない実習であったにも関わらず,実習後の手紙には「久しぶりに働く喜びを思いだすことができました」と記されていた.実習後に,そのまま雇用して欲しいと言ってくださる方も多い.短期間だからこそ,緊張しながらも精いっぱい仕事にあたる姿は,慣れた環境で働く私達に様々なことを考えさせる.その真摯な姿に,こちらが学ぶべきところが実に多くあるのだ.実習を受け入れることは企業にとっても学びの機会である,ということが広く知られ,1社でも多くの企業が実習生を受入れ就労を希望する障害者の技能開発が進むことを願ってやまない.8. 実習生の指導9. 実習生が企業にもたらす好影響

元のページ  ../index.html#6

このブックを見る