2/2015
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多様な価値観を持つ人が増えたことが原因と考えられる.高齢者雇用を能力開発の側面から概況すれば,現在でもさまざまな職業訓練科目が設定され,その対応が図られてきた.当センターでも,概ね50歳以上の方を対象にした高齢者向きの訓練科目が2つあるが,応募状況はどちらも良好だ.それだけ人気が高いわけで,高齢者雇用に取り組まなければならない必然性がここからもわかる.高齢者雇用は計画性を持って円滑に進めなければならないと考える.国や雇用政策に関係する団体は,「生涯現役社会の実現」,「年齢にかかわりなく働ける社会の実現」,「中高年者の再就職の援助」,「多様な形態による雇用・就業機会の確保」などさまざまな施策や取り組みを行ってきた.これらの結果,高年齢者雇用の環境整備はかなり進み,自社内での雇用延長も軌道に乗ってきた.解決すべき課題としては,いかに高齢者雇用に密着した能力開発に取り組むか.そして,最終ステップと提唱する,外部からの高齢者再雇用を意識した就職支援はどうあるべきか.これらについて以下に述べていく.高齢者雇用の就職支援を論ずる前に,密接に関係する能力開発のあり方に触れる.高齢者雇用だからと言って能力開発のあり方が特段に変わるわけではない.だが,これまで培われてきた社会経験,熟成された職業観,子供の自立に伴う生活基盤の変化など,明らかに若者とは異なる価値観が存在する.したがって,能力開発のあり方もそれに沿った制度設計を構築する必要がある.一般に,高齢者はIT事業などの先端分野の設計・開発や体力を要する製造現場よりも,教育・指導のように,経験が活かせ,かつ社会・人に関われる管理支援業務が向いていると考える.その観点からは,製造業でも,資材管理,製品出荷,物流関係,工程管理,品質管理などの業務に活路を見出せるはずだが,残念ながら,これらの職種は新規に雇用しなく-50-ても社内の高齢者を配置換えすることで充当しているケースが多い.配置換えのための能力開発の必要もそれほど高くないことも影響している.職業訓練に的を絞った上で高齢者雇用を考えれば,やはり社会・人に関われる管理支援業務に間口を拡げることが望ましい.具体的な分野としては,地域コミュニティ・ビジネス,営業支援,人事・労務管理が期待できるのではないかと考える.まず地域コミュニティ・ビジネスであるが,駅前などの駐輪監視,公園維持管理,福祉・生涯学習施設の運営,展示施設の説明,介護支援など環境・福祉・文化分野の支援業務が想定される.次の営業支援としては,提案型営業に欠かせない人脈構築,提案書作成,膝詰め交渉などに能力が発揮できるはずだ.商品アドバイザーや外部からの苦情処理,教育訓練なども高齢者に適職だと思う.最後の人事・労務管理も,採用後の研修から健康管理,キャリアデザインの再構築の仕方まで,社会経験が役立つので,高齢者の能力が発揮できる場面と言える.加えて,私がこれまで求人開拓の一環で企業の方と接している中で,企業側のさまざまな思いがあることも承知している.時々「高い給料は出せないが営業から労務まで仕事ができる人なら高齢者でも欲しい」との本音が漏れることもある.応接した相手方は中小企業の役員クラスが多く,求人票を出した現場製造部門の他にも,営業・管理部門でも戦力になる人材なら高齢者でも歓迎したい,そうした経営的考えを持っているわけだ.こうした社会ニーズを踏まえ,従来から設けられている,ビルの設備保全管理・清掃サービス・警備,マンションの維持管理,庭園施工管理などの訓練科目を充実させ,さらに魅力ある高齢者雇用の能力開発を目指すことが期待される.当センターにおける高齢者を対象とした訓練科目には,設備保全,マンション維持管理の2科がある.設備保全科では,空調,衛生(水まわり),電気,セキュリティ(防犯,防災)を学ぶ.これらに関連した資格を取得し,最終的にはビル管理のプロを目指す.マンション維持管理科では,建物の維持管理を基礎3. 高齢者雇用を意識した能力開発のあり方

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