2/2015
5/60

高い技能を持っている人は多くいるのだが,そのことを自ら教えてくれることは稀だ.企業側が,その人の得意な事を見つけだし,高いパフォーマンスを出せる業務と結びつけることが,高効率につながる.大事なのは,自分ではさほど長所と思っていないことでも,周囲が発見し,トライするように働きかけることである.実習生が実習中に身につけなければいけないことは,自分自身の状況を把握し,配慮要求を周囲や上司に伝える技術である.周囲は気を使っている場合が多いから,「大丈夫ですか?」という声かけはするだろう.それに対し,仕事量,難易度,精神的負担などを自分自身で分析し,本当に大丈夫かどうかを見極め,きちんと報告することが必要だ.期待に応えなくてはならないという気遣いから,大丈夫でないのに,大丈夫だと答えることは,双方にとって不利益である.正直に申告してくださいといくら言ったところで,実習生が自分の不利益になると感じてしまうと,発言は期待できない.では,正直に言える雰囲気をどう作るか.集団で行動している時に,自分だけが配慮要求をするのは誰でも気が引けるものだ.そこでまずは上長自らが率先して「自己開示」をすることが有効である.当社では,毎朝の朝礼でその日の気分と体調を報告することにしている.障害当事者だけでなく,全員が平等に言うことがポイントだ.「昨日,飲み過ぎて頭が痛い」「風邪気味だ」「懸案だった作業が一区切りついたので今朝は気分がいい」などで,お互いの状況が分かる.自分自身に目を向け,発表することで,仕事ばかりでなく他者にも目を向け,お互いが配慮する雰囲気を作り出している.管理職という言葉があるのだから,働く障害者,もしくは実習生の管理は上長の仕事だ,というのが-3-一般的な考えだろう.しかし本当にそうだろうか.障害のある人は生活の中で,自己決定の場面が健常者に比べて少ない.医師の指示,家族(特に親)の指示,支援者の指示に従わざるを得ない事が多いと思われる.いつも誰かの支援・保護・管理のもとにおかれているため,意思表明や意思自体が希薄になってしまっている人を多く見かける.自分を表現することを,無意識のうちに遠慮しているとも言える.そこを打開し,自分の事は自分で管理する習慣を身につけてもらうことが,結果として管理職の負担を減らすことになる.障害者に対応する専門のスタッフがいない中小企業においては,いかに管理者とはいえ,経験の浅い人が指導をしなくてはならない状況があり,管理者自身の調子を崩す原因になるという笑えない状況もある.理想的なのは,責任が管理者ばかりに集中せず,組織全体が自然な形で支え合うこと,配慮要求も配慮も,スムースに行われていくことであろう.そのような雰囲気の中では誰もが働きやすいので,健常者の社員のメンタルヘルス向上にも有効である.実習生は,実習期間を,何事もなく過ごすことを目標としている.いままで就労移行支援事業所で学んできたことを発揮して,健常者のように働けることを目指している.しかし,彼らは本当に健常者のように働けるのか,と言えばそれは無理だ.実習期間を難なく過ごし就労しても,実習中とは違う本物のストレスにさらされた時,調子を崩してしまいがちである.そうなるよりも,比較的責任の軽い実習期間中に色々と事象がおこり,それを職場全体で解決していく手法を手に入れることが有益である.先日,3ヶ月間に渡る実習をほとんど難なくこなした方が,仕事時間中に会社を飛び出して行ってしまう出来事があった.夕方にその話を聞いた時,私は嬉しかった.なぜなら,その方はいままでそのような行動を取ってしまう事が時々あり,就労に苦労してきたからだ.その方の,極度に困った時に身を5. 障害当事者からの配慮要求6. 障害当事者の管理は誰がするのか7. 実習中に起きる事象を乗り越える

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る