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9.まとめ10.あとがきイヤーは,法的基準を上回る設計としてあり,震度7の直下型地震の縦揺れに対しても,破断しない強度になっていた。そのおかげで,吊り上げワイヤーには全く損傷が見られなかった。ワイヤー以外のリフトアップ関連の仮設部材は,さらに高い強度となっており,全く問題がなかった。 タワークレーンは,一般の標準仕様として震度5強に耐える仕様である。しかし今回は,これをかつてない高さに設置することになるため,標準仕様では強度が不足することも想定され,建設中のタワー上に載せた解析モデルに震度5強の地震波を加えた動的解析を行って,3つの追加対策を実施した。 1つ目は,タワークレーン自体が倒壊しないように,クレーンマスト(支柱)の強度を25%増強した。2つ目は,クレーンマストとスカイツリー本体を結ぶ繋ぎ材の最上部に,オイルダンパーの制振装置を設置し,揺れを半減させた。これは,タワークレーンでは世界初と思われる。3つ目は,ジブ(タワークレーンの腕の部分)のアオリ防止装置である。ジブは正面から突風を受けると,後方に倒れて損傷する恐れがある。その対策として,ジブを前からもワイヤーで押さえた。当初,強風対策として検討したこのアオリ防止装置が有効に作用し,地震の揺れにもジブが暴れ回ることなく,損傷を抑えられた。 以上のように,さまざまな事前検討と対策の結果,3.11の地震に対しても,工事進行の障害となるような損害はなく,地震の1週間後の3月18日に最終リフトアップを行って,高さ634mに到達した。 3.11の地震では,スカイツリーは未完成の状態ながら激しい揺れに耐え,計らずも耐震設計や構造強度の確かさとともに,施工における技術力と安全管理の成果を実証することとなった。こうして2012年2月末に無事完成した(写真2)。 東京スカイツリーの建設では,「巨大である」ことと「精密である」という,相反する2つの要素を両立する必要があった。計画通りに完成できたのは,実現に向けて知恵と力を結集した数々の関係者技能と技術 4/2012-34-と,一緒に汗を流した現場作業員1人ひとりのお陰である。 また,3年半にわたる工事を見守ってくださった地域の皆さま,さらに国民の皆さまにたいへんお世話になりました。この場を借りてお礼を申し上げます。 (講演終了) 東京に自立式電波塔としては世界一の高さとなる「東京スカイツリー」を建設するために,設計・製作・施工の各プロセスにおいて「現代の匠たち」が多数活躍したことが,特別講演を聴いてよくわかった。その姿は千年以上前に,現在まで残る五重塔を造った「いにしえの匠たち」を髣髴させ,感動した。 最後に今回の特別講演を快く引き受けてくださった株式会社大林組,そしてたいへん解かりやすく説明してくださった高木講師に心からお礼を申し上げます。[資料提供]株式会社大林組写真2 完成した施設全景

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