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8.“3.11”の地震についてを,一本一本個別にコントロールできるシステムを使い,工事現場内の司令室で制御を行った。また,ゲイン塔が塔体から突き出た状態では,水平の油圧ジャッキを複数段に設置し,ゲイン塔を横から抑えて安定させるとともに,1/10mm単位で押し引きして精度確保にも利用した。リフトアップには,約9ヵ月を要した。 ゲイン塔のリフトアップを追いかけるように,トラス中心部の空洞に鉄筋コンクリートの心柱を構築した。この施工には,高い煙突などに使われる「スリップフォーム工法」を採用した(図6)。 これは,型枠を滑らせながら上昇させ,連続してコンクリートを流し込んでいく工法である。今回の心柱は,狭い空間の中で高さ375mまで立ち上げるという例のない施工となった。高強度でありながら,短時間で固まる性能のコンクリートが採用され,1日当たり約3mのスピードで連続して打設し,375mまで構築した。 2011年3月11日午後2時46分,東北地方太平洋沖地震が発生した。墨田区では,震度5弱を観測した。現場は,最終回の1つ手前のリフトアップ作業中(619m〜625m)であった。ゲイン塔頂部の振れ幅は4〜6mに及んだものと推測される。ワイヤーに吊られた状態のゲイン塔は,ワイヤーの伸縮により10cm程度の上下動があった。塔体最上部(高さ497m)の振れ幅は,左右に1.4m程であった。これらは,心柱の制振装置およびゲイン塔頂部の制振装置が作動していない状態での揺れの大きさである。 着工前からさまざまな対策を検討してきたが,すべて想定の範囲内の挙動であった。その結果,作業員や職員に怪我はなく,構造体にも被害はなかった。一部の仕上げ材に損傷があったが,交換して対処した。仮設材ではリフトアップ中の転倒防止用水平ジャッキに取り付けた滑り材(樹脂製)が一部損傷したが,交換して対応した。タワークレーンも事前検討による対策の結果,損傷はなかった。-33- スカイツリーの現場には,地震のほかに風や雷を察知する警報システムを設置していた。このシステムによる緊急地震速報が作動し,揺れ始めの1分前に警報を発した。それにより,作業員は現場の安全確保と緊急退避を行った。揺れの収束後には,避難行動マニュアルに沿って安全な場所へ避難した。800人程度の作業員が現場内に居たが,間もなく全員の無事が確認できた。 タワーの構造体は,3年半にわたる工期の中で,徐々に形態が変化していく。それぞれの工事進行段階において構造解析を行っており,耐震安全性の確認がなされていた。東京スカイツリーはもともと耐震性が高い設計であり,心柱のない状態でも通常の建物以上の耐震性を有している。今回の地震動は,事前検討の範囲内のものであり,被害が全くないという想定通りの結果となった。 リフトアップについては,合計で3,000tのゲイン塔を吊り上げている状況であった。これを支えるワ特別講演図6 スリップフォーム工法

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