4/2012
32/50

5.構造上の特徴について6.建設工事について 美しい立ち姿を実現するためには,構造上の難題を克服する必要があった。構造的に見ると,スカイツリーの特徴は「細長く高い」ことである。 東京タワーは足元の幅が95mで,高さが333mである。この幅と高さの比率をアスペクト比といい,東京タワーのアスペクト比は1対3.5となっている。 一方,東京スカイツリーは足元の幅が68mしかなく,高さは634mであるから,アスペクト比は1対9.3となる。東京タワーに比べてかなり細長いため,揺れやすく倒れやすいことになり,しっかりと自立するための工夫が必要となる。 地震や強風によって大きな横向きの力が加わると,全体が巨大なテコのようになり,一方の脚部に引抜き力が,もう一方の脚部には押込みの強い力が加わる。これらに対抗するためには,基礎を相当に強化する必要がある。 そこで,大林組が開発したナックルウォール(節付きの壁杭)を採用した。これは,鉄筋コンクリートの壁を地中に構築し,壁状の杭として使うもの。さらに節のような突起を設けて,引抜き力や押込み力に抵抗する。3ヵ所の節付き壁杭は,さらに地中の壁によって繋がれ,全体が三角形となっている。これにより,地震時の水平力にも抵抗できる。ナックルウォールの深さは,一番深いところで地下53mに達する。敷地の地盤は,地下40m以深が強固な岩盤であり,そこに10m以上埋め込んでスカイツリーを堅固に支えている。 東京スカイツリーの上部構造は鉄骨造が中心であるが,この壁杭の中にも鉄骨が埋め込まれており,それが上部の鉄骨と直結されている。したがって,鉄骨の長さは634m+50mとなる。 次に,「揺れやすさ」に対する対策については,日本古来の知恵を生かしている。日本のタワーの祖先は五重塔だが,古いものは千年以上にわたり地震に耐えてきた。火事で消失したものはあっても,地震で倒壊した記録はないとのこと。この五重塔の耐震性の秘密は,科学的に完全には解明されていない技能と技術 4/2012-30-ようだが,塔全体を縦に貫く1本の柱(心柱)があり,これが他の部材と接触しておらず,独立した心柱が塔全体の揺れを抑えているといわれている。 スカイツリーはこの仕組みを現代的に解釈して,中心に鉄筋コンクリート造の心柱を構築し,外側に鉄骨トラス構造の骨格を組み合わせてハイブリット構造としている。この2つの構造は地震に対して特性が異なり,これらをオイルダンパーで繋ぐことにより,タワー全体の揺れを低減する仕組みとなっている。これを「心柱制振」と呼び,世界でも初のシステムである(図4)。なお,心柱内部には避難階段が設置されている。 最上部の一番細い塔体は,地上デジタル放送用のアンテナを取り付ける部分で「ゲイン塔」と呼ぶ。最も揺れやすく,そのままでは電波の送信に支障が起こるため,頂部にも別の制振装置を設置している。 高さ634mは前人未到であり,施工計画に当たってはさまざまな問題を事前に明らかにして,解決していく必要があった。 タワークレーンについては,既存のものでは最大でも300mまでしか揚重できない。そこで特別仕様の最新機種を開発し,揚重範囲を420mまで増強した。また,狭いスペースでも3機設置して作業をスピーディに進められるようにするため,コンパクト化を図った。さらに,お互いがぶつからないように統合管理システムも搭載した。風や地震についても検討し対策を施した。 次に,高さ420m以上をどうやって造るのか,最 図4 心柱制振

元のページ  ../index.html#32

このブックを見る