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埼玉県立大学保健医療福祉学部 教授朝日 雅也1.ソーシャルインクルージョンとしての障害者就労 企業等での就職を希望する障害のある人がここ数年,増加している。ハローワークでは,求職登録件数・就職件数が急増し,2011(平成23)年度のまとめでは,就職件数は前年度比12.2%増の約6万件で,過去最高を示している。その背景には,障害者雇用率制度に基づく企業への障害者雇用率達成指導の強化や障害者自立支援法による就労移行支援事業の展開,特別支援学校における就職促進のための取り組みの強化等,労働,福祉,教育分野等をあげた制度的な支援の充実があげられる。いわば「福祉から雇用」への動きが加速化しているといえる。同時に,こうした政策的な意図のみならず,障害があっても当たり前に通常の職場で働く機会を望む障害のある人が増えていること,それを支えようとする社会の変容が確実に進んでいることなどが背景として考えられる。こうした動きによって,まさに職場においても,だれも排除しない,ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)としての障害のある人の就労が実現しつつあるといえる。 現在の障害者法定雇用率1.8%(民間企業)は,来年度から2.0に引き上げられるが,就職を希望する障害のある人の増加は,その原動力になっていることも,通常の職場で働くことの重要性を示す証でもある。2.重要性を増す職業能力開発 こうした障害のある人の就労ニーズと,障害のある人を雇用し,その能力を最大限発揮させる企業等の事業所とのマッチングが重要さを増しているといえる。単に,「障害者も働くべき」とか「障害者雇用率制度があるから雇用しなければならない」とい-1-う関係性ではなく,障害の種類や程度をこえて,「だれもがその持ち得る能力を発揮する」働き方を実現することは,障害のある人にも,企業にも,そして社会全体にとっても大きな利益をもたらすことはいうまでもない。 その際には,障害当事者も含めて,関係者は従来の仕事と障害のある人との固定的なマッチングの概念から解放されることが重要である。車いすの利用者は座位を中心とした事務作業,知的障害のある人は,単純反復的な作業へという考え方から,障害の種類をこえたマッチングの可能性を追求する職業能力開発のフレームワークの転換が必要となる。例えば,発達障害故に対人関係に困難があるからということを根拠に,今後の高齢社会において人材不足が見込まれる介護労働の分野から遠ざけてしまうのではみすみすその潜在能力を生かせないことになり,大変勿体ない。実際の職務を改めて見つめ直し,具体的な職務遂行能力の獲得に向けて,障害の種類や程度にかかわらず,適切な訓練プログラムとして構築していくことが関係者には求められる。 ところで,障害のある人の職業能力開発については,知的障害,精神障害,発達障害のある人の就労ニーズが高まるにつれ,ジョブコーチ支援に代表される,「訓練してから就職」ではなく,「就職してから訓練」(実際の職場においてのアセスメントや必要な技能の訓練)という考え方に基づく支援が浸透してきている。その個人の職務遂行能力も本人の技術や技能の付与や向上のみならず,作業手順の変更や障害に配慮した環境の設定によって,「できない仕事」を減らしていく方法が重視されるようになっている。また,国際連合の障害者権利条約にも代表されるように,障害のある人が保護の対象ではなこの人のことばこのの人ことば障害のある人と職業能力開発

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