3/2012
18/49

3.JILPT調査からみた各形態の実態各形態の枠組みに関するもの「無期雇用」,「フルタイム就業」の3つをあげました。この3つに当てはまる人は「正社員」と考えることができるということですが,実際的な観念としてこの3要素だけで「正社員」といえるかどうか確信が持てない面もあります。 古くからあって最もわかりやすい例として,3つの要素には該当しながら「パート」と観念される従業員がいます。「定時社員」とかと呼ばれ,研究上は「疑似パート」とされる層です。多くの場合他の正社員の補助的業務を担い,原則として残業をしない働き方です。 また,特定の事業所やせいぜい通勤可能な範囲の事業所で就業することを前提として雇用されている「地域限定正社員」と呼べる従業員層もいます。また,一定の職域や業務範囲でのみ就業することを前提とする「職域限定正社員」ないし「業務社員」と呼ばれる従業員層もいます。これらは,そうした限定のない正社員とは別建ての「雇用コース」として制度化されている場合もありますし,事実上の人事慣行として行われていることもあります。 これらの層は,3要素基準からいえば「正社員」の側にありますが,就業実態や就業条件などは正規と非正規との中間領域にあることが一般的です。実際の動きとしても,特定の職域の従業員について,ある時期に「契約社員」化されたものの,その後「正社員」に戻されたといった企業の事例が散見されます。今後は,こうした正規・非正規境界線の正社員側にある層の動向にも注目していく必要がありましょう。 なお,以上のこととは逆に,3要素をクリアしていなくとも「正社員」と観念される従業員もありますが,本稿ではこれ以上回り道はしないでおきます。 ここでベースとして使用するJILPT調査は,「多様な就業形態に関する実態調査」といい,全国1万事業所(常用雇用10人以上規模)とそこで働く従業員(各事業所当たり10票配布)を対象に,平成22年8月に実施したものです。事業所調査は1,610所,従業員調査は11,010人から有効回答が得られまし技能と技術 3/2012-16-た。この調査の「ウリ」は,何といっても多様な項目のデータを把握しているところにあります。調査結果の詳細は,JILPT労働政策研究報告書№132や同№143,調査シリーズ№86として取りまとめています。 それでは,上述した6つの非正規雇用形態の特徴を解説しましょう。以下で使用するデータは,上記のJILPT調査の従業員調査のデータで,各形態は職場の呼称をベースに調査しています。また,ここでは,各形態の枠組みに関するもの,職業や業務に関するもの,および能力開発の取り組みに関するものの3点についてのみ紹介したいと思います。これら以外のものも含め調査で把握された事項について,特徴点を本稿の末尾に付表として整理しておきましたので,参照にしていただきたいと思います。 「各形態の枠組みに関するもの」というのは,それぞれの実際的な定義とともに,上述の非正規3要素がどうなっているかをみるものです。理論的な定義と実際の呼称とのブレを確認することでもあります。(パート) パートは,通常よりも所定労働時間が短い働き方です。パートの雇用・労働関係を規範づけているパート労働法(「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)でも1週間の所定労働時間の短いことで定義しています。これは法律ですので,この定義に沿って種々の取り決めがなされています。例えば,短時間労働者であっても業務の内容やその責任の程度が同じ,人材活用の仕組みも同じ場合には,賃金,教育訓練等の待遇について差別的取扱が禁止されるなどの規定が盛り込まれています。 とはいえ,職場で「パート」というとき短時間の従業員ばかりではないのも事実です。JILPT調査によれば,パートで週の所定労働時間が35時間未満の人の割合は63.4%と3分の2近くを占めていますが,33.7%の人は35時間以上であるとしています。ちなみに,正社員では90.1%の人が35時間以上と回答しています。 つぎに無期か有期かをみると,72.7%が有期とし

元のページ  ../index.html#18

このブックを見る