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心の状態を考えた場合、指導員同様、自分自身の心身の不調を捉えることが重要である。訓練生は、時に多少の不調は気にとめないかもしれない。また、身体感覚に敏感でない訓練生は、身体の冷えや凝り、曖昧な気持ちに気づくといった心身の不調を見過ごしがちである。他者からの自身の心身の不調を指摘してもらうことも訓練生の生活のバランスを考える上で不可欠だろう。一方、②指導員からの問いかけへの対応についてであるが、指導員と訓練生間には、双方が意識しなくとも上下関係が発生することが一般的である。訓練生の心身が不調の場合、指導員からの問いかけや気遣いは、時に訓練生に被害意識等何らかの反応を生じさせる可能性がある。指導員が訓練生に対して注意や指導を行うことはごく当たり前の事であるが、心身が不調の訓練生にとって、特にそれが不用意に早い段階で行われた場合、必要以上の衝撃を受けることもある。またその訓練生が災害を直接体験していた場合、指導員の注意や指導の内容によっては必要以上の衝撃が長期間持続し、訓練生の日常生活に影響を及ぼす可能性も否定できない。従って訓練生は、自身の心身の状況ならびに指導員との人間関係や訓練内容について、一人で抱え込まないよう心がける必要がある。一人で抱え、解決することを自立と捉える人もいることだろう。しかしながら、指導員と訓練生とを上下関係で考える傾向がある場合には時に、一人で抱え込む方法は良い方法であるとは言えない。必ず周囲の訓練生や他の指導員、相談員に相談し、異なる方向からの客観的な視座を大事にすることを勧めたい。このことは、コミュニケーションの活性化につながるだけでなく、DPTSD等への状態の悪化を予防できると考える。 東日本大震災は、直接的にも間接的にも甚大な被害を日本にもたらした。現時点では見通しのつかない被害の収束に対して、我々は今できることを一つずつ行い、自分自身のこころと身体のバランスを崩さぬよう、また自身の状態と丁寧に向き合うよう日々を過ごす事が益々重要になってきている。震災後の社会において心身の不調に「慣れる」ことは、決して忍耐強くなることではない。震災直後の不安や緊張がわずかでも落ち着いたこれからが、自身や周囲の人々を気遣い、様々な事象への予防に取り組む大切な時期となるだろう。4.おわりに技能と技術 1/2012−24−参考文献1) 日本心理臨床学会監修 日本心理臨床学会支援活動プロジェクト委員会編 『危機への心理支援学 91のキーワードでわかる緊急事態における心理社会的アプローチ』、遠見書房、2010年2) 高橋 哲 「Traumacounseling」(『JICA四川大地震こころのケア人材育成プロジェクト訪日研修』における講演資料より)、2010年3)冨永良喜 関西動作法研修会講義資料より、2011年4) Danny Horesh・Z. Solomon・G. Zerach・T. Ein-Dor. Delayed-onset PTSD among war veterans : the role of life eventsthroughout the life cycle. Social Psychiatry PsychiatrEpidemiol 2011; 46:863‒870.5) Andrews B, Brewin CR, Philpott R, Stewart L. Delayedonsetposttraumatic stress disorder : A systematic review ofthe evidence. American Journal of Psychiatry 2007; 164 : 1319‒1326.6) Chao-Yueh Su, Kuan-Yi Tsai, Frank HC.Chou, Wen-Wei Ho, Renyi Liu, Wen-Kuo Lin. Athree-year follow-up study of thepsychosocial predictorsof delayed and unresolvedpost-traumatic stress disorder inTaiwan Chi-Chi earthquake survivors. Psychiatry and Clinical Neurosciences 2010; 64 : 239‒248.

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