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 この状況が進めば、欧州と同じく、日本を含むアジア内で共通の技能レベルの基準作りが必要になるかもしれない。国境の壁が低くなり、グローバルな労働市場となれば、「終身雇用」や「同一年齢同一賃金」は通用せず、仕事は「能力第一」となり、ますます世界共通の能力評価基準が必要になってくるだろう。しかし、能力評価の世界標準化の前に、まずはその国独自の歴史や産業構造等に根差したローカルの評価システムづくりが必要になると思われ、一足飛びの制度構築には無理がある。 ほとんどの開発途上国は、先進国の途上国支援という枠組みの中で欧州型職業能力評価制度を取り入れており、日本が職業訓練分野で協力を実施する場合には、日本の「職業能力開発促進法」等で規定する仕組みとの整合性が求められる。今や欧州型職業能力評価制度がグローバルスタンダードの位置を占めつつあるため、このスタンダードに抵触する協力内容については、プロジェクトの計画段階でよく吟味し、抵触箇所がプロジェクト計画に大きな支障をきたさないかどうかの判断をすることが重要である。なかでも職業訓練の制度等に係るソフト協力のプロジェクトについては、この観点に立った精査が必要である。 欧州型のEQFの制度構築には、まず、各産業分野が育ち、大きな裾野を形成し、優秀な技術・技能者が存在している必要がある。また、この制度運用には、能力評価基準の作成や評価コストが膨大で、さらに技術革新に対応したその更新に膨大なコストが必要となる。 日本の技能検定は、ものづくり職種に重点を置き、民間の資格を浸食することなく運用されており、コストも低く抑えられるシステムであるので、ベトナムを含む新興国においてまず導入されることは有効な措置であると考えられる。 また、今後の職業訓練分野に対する海外技術協力としては、現場重視的な日本型援助の強みを生かしたままで欧州型職業教育制度と共存できる仕組みの模索が必要である。欧州型の協力はスタンダードの構築に終始し、その国の歴史的背景や実情に合ったすり合わせまでされないことが多いため、日本型の技術協力の必要性は日々増していると思われる。日本型製造業の「すり合わせ技術」は、職業訓練の技術協力の現場におけるソフト協力の分野でも有効で、国際競争力の維持に欠かせないポイントのようである。 欧州では、職業能力開発に係る制度構築を行う者と、それを実践する現場との分離が日本より顕著であり、制度と現場の整合性が低い。これは欧州型システムの大きな弱点であり、今後も解消されることが困難な階級社会の弊害であろう。 一方、日本の職業能力開発制度においては、各訓練課程の修了証とリンクする資格の定義付けが欧州のように設定されていないため、グローバル化に対応しきれない制度の弱点として浮上するかもしれない。 デフレの定着は、インフラの充実及び技術革新のさらなる進展をみるに違いない。この技術革新に追随する職業能力開発の刷新はもちろん必要であるが、基礎的な職業能力の開発も引き続き重要な位置づけであり、海外技術協力の重要な対象であり続けるに違いない。5.日本型海外技術協力6.おわりに技能と技術 4/2011−32−

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