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図1 茶運び人形の製作 からくり人形の精巧なつくりと人間味あふれる動きは今でも人々の心に感動を与えてくれる。限られた環境の中で精一杯、創意工夫を凝らしてきた先人の知恵と職人魂に敬意を表さずにはいられない。一方、半世紀前の日本、パソコンや携帯もない不便な時代であったが、ものを大事にし、創意工夫する心を養わせてくれた時代でもあった。時代が変わり最近はものを直したり自分で工夫したりする機会は少なくなってしまった。といって、便利でモノがあふれる世の中を責めるつもりはない。からくり人形をつくってきた創意工夫する心と競争する心、モノを大事にする心は日本人の心にDNAとして引き継がれているはずである。今、大切なのは若者にそうした夢と目標の場を与えることではないだろうか。 からくり人形師やレオナルド・ダ・ヴィンチが一番苦労したのは動力源やアクチュエータであったろう。人型ロボットや飛行機の発達は電気モータやエンジンあるいは油圧空圧といった高性能なアクチュエータの出現によるところが大きい。しかし、電気等が存在しない時代、使用できるアクチュエータや動力は、ゼンマイやばね、水力あるいは人力や牛馬に限られていた。そのためおのずと“からくり”を工夫せざるをえなかった。 図1は、かつて製作した茶運び人形である。茶運び人形の原点は機械仕掛けの時計にある。巻いたゼンマイが一定の速度でほどけるようにするためには天符と呼ばれる調速器が用いられた。スタートとストップを行う機械式スイッチや方向転換をさせるカム機構などは現代の機械でも使われている。ただ、当初、ゼンマイには金属製ではなく鯨のヒレが使われていた。鯨のヒレでは金属製のように何回転も巻くことができなかったようである。そのためゼンマイ軸とカム軸に取り付けた大歯車で動輪軸の小歯車を回して回転数を増やしていている。これでは速度を増速し移動距離を延ばせるが力は出せない。しかも歯車は木を張り合わせて1枚1枚の歯を削ってつくっているため滑らかな回転は難しい。そうした問題はあったが大歯車とカムとゼンマイの各軸を同一にすることでメカニズムが簡単になるとともに適度な歩行スピードと長い移動距離を得ることができた。設計者の苦労がしのばれる。1.はじめに2.からくり人形と自動化−25−研究ノート関東職業能力開発大学校付属千葉職業能力開発短期大学校 平塚 剛一 研究ノート研究ノート“からくり”のこころ

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