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5.工業英検の取り組みが学生の実態に合わせて進むことによって,基礎力のかなり不足している学生も最後まで意欲を持って学習し,かなりの程度向上させることができた。筆者の主観的な感触であるが,クラスの雰囲気がよくなったと思われた。 本校では10年ほど前から通信システム工学科の西澤紘一教授と室伏誠教授が中心となって科として工業英検の受験を推進し試験会場も実施されていた。室伏教授から今後は英語教室で取り組んでもらえないかと相談されたことがきっかけで,英語教室として工業英検に取り組むことにし,2007年以来,年1回11月に試験会場を実施し,工業英語にも本格的に取り組むことになった。教材も一般的な科学技術エッセイではなく,技術者ないし技術者を目指している学生が研究や仕事の現場で使う英語を学ぶことにした。 工業英語を英語教育の中心にして工業英検にも取り組もうと思った理由は,第一に,本校の教育目的と学習内容に適合していること,第二に高校とは違う新たな学習なので基礎力の差にかかわらず誰もが新しい気持ちで学ぶことができること,第三に基礎力養成に適した内容であること,第四に明確な目標を与えることで学生のモティベーションを高められることである。 工業英語を学習するようになると,学生たちが非常に興味を持って学ぶようになった。その理由は,彼らの日常生活つまり他の科目で学んでいる内容と英語の学習内容が連携していることである。例えば英語で数学の用語や数字,数式の読み方を学習しているとき数学で微分積分の基礎を学んでいたり,英語で周期律表の英語表現を学んでいるちょうどその時に「基礎科学演習」で元素周期律表を勉強しているということがあった。また化学実験を行っている一方で英語で化学式や化学実験装置の説明の仕方を学ぶといった具合に,英語と他の学科の学習内容に連携が取れるようになってきた。英語の時間に物理学に関することが問題になり議論したりすることも36あった。このように他の科目の学習内容とタイミングもうまく合っているような場合,授業は盛り上がった。こうして英語は英語のために学ぶということではなく,実際に自分の勉強で使うものだということを感じてもらえたのではないかと思われる。そういう時には英語が苦手だというような意識は忘れて,むしろ自分は専門の勉強をしているんだという自信と自負が英語の難しさを大変と感じさせないようであった。 例えば電気システム工学科の1年生にオームの法則を説明する英文を和訳させたところ,英文は決してやさしくはなかったが,筆者の予想に反して彼らは「こんなのは簡単だ」と言い,すばらしい和訳を書いてきた。中学の基礎もできないと自分で言っている学生もこの課題は何とかできた。オームの法則は彼らがそのとき学習していた電気工学に比べればあまりにも初歩だった。難しい電気工学の勉強を乗り越えてきた自信が英語学習を後押ししているのである。工業英語を中心にしていくことは正しいと確信を持てるようになった。 工業英検の合格者も増えてきて,2010年は4級74名,3級18名,2級1名の合格者があった。2007年には4級33名,3級5名であった。この4年間に合格者が増えてきた理由は,工業英検に対して専門工学科からの理解が得られ,通信システム工学科をはじめとして,電気システム工学科および機械システム工学科で学科として学生に受験を勧めるなどのバックアップをしていただいたからである。それによって学生の認識が変わり,多数の学生がチャレンジするようになった。また合格率も上がってきた。2007年には4級合格率は72%だったが,2009年には90%,2010年には96%になった。4級に関しては基礎力不足の学生でもほぼ合格することができるようになった。それが自信につながってくれればと願っている。3級合格率も20%から64%に向上した。大学生としては3級に合格できるよう努力していきたい。多く合格できたことは何よりも学生自身の努力の成果であるが,英語教員全体の協力と専門工学科からのバックアップの結果でもある。技能と技術

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