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4.基礎力養成の取り組み このように基礎力調査は教員にとって有効であるだけではなく,実際に行ってみると学生自身が自分の英語基礎力を認識する手がかりになるという意味があった。高校で学習したはずの事柄でも自分の理解が不十分であることがわかるので,その部分の学習の必要性を理解して学ぶことができる。授業の進め方に対しても納得して取り組んでくれるという効果があった。また基礎の項目が明示されることにより,ここまでできるようになったという自己評価もよりはっきりとできるようになった。 調査の結果わかったことは,第一に,英語の基礎を系統的・意識的に学んできていない学生がかなり存在するということである。つまり高校レベルの語法をある程度覚えていたり,決まった言い回しを使えるとしても,英語の基本的な組み立て方がわかっていない,またはそういうことをあまり意識してこなかった学生がかなりいるということである。したがって,英語の基本的な考え方,日本語とは異なる組み立て方について,基礎から学習する必要があると思われた。 第二に,当然ながら高校までの学習内容はほぼ確実にマスターしている学生も多数あり,個人差が大変大きいということである。したがって,この差に対応しなくてはならないことが改めてはっきりした。 このような実態を踏まえ,私たちは基礎力養成の方針を次のように考えた。 まず第一に,何が「基礎」かを明示すること。第二に,できるまで練習すること。第三に,中学・高校の反復は大学のやり方ではない。大学生にふさわしい,基礎学習を提示しなければならない。高校までの学習ができていないから補うという発想が前面に出ると学生の意識が後ろ向きになってしまう。そうではなく,技術者としての将来の仕事に必要な英語を学ぶという前向きな授業を提供すべきであり,その中で基礎が身に付くというようにしなければならないということである。1/2011 基礎力とはさまざまな要素を統合して筋道立てて考える力(統合力)と運用力である。統合力のツールが文法である。したがって基礎として不可欠な文法要素を提示し,それが言語感覚として身に染みつくまで練習できるような教材を工夫することにした。基礎力調査の結果を考慮し,基礎として不可欠な第一の要素は文の種類,品詞,文型であるとねらいを定めた。そして,これらの要素を大学生の知的レベルにふさわしく,本校の学生に合った語彙と例文で説明することにした。すなわち,中学高校で習った文法事項であっても,中学高校のときに出会ったような文ではなく,大学生の知的興味を引き,考えさせ,心に残るような例文を用いるようにした。また練習問題は科学技術,工業英語の語彙と例文を用いることにした。いわば大学生にふさわしい例文(内容のレベルは高い)で,基礎の学習をするようにしたのである。そうすることによって,基礎力がすでに相当できている学生も興味を持って学習することができた。 その後の基礎力調査によってさらに基礎の部分を補う必要が出てきたので,主語=動詞関係と動詞の使い方を徹底練習するための教材も用意した。そしてこれらを活用しながら授業や学習支援センターでの補講などを適宜実施してきた。また非常勤講師の方々にも基礎力調査の結果を知らせ,対策の方針を伝えて協力をお願いし,英語教室全体で取り組むようにした。 筆者の担当クラスの経験では,先に述べたように,基礎力調査によって学生の現実をよりリアルに把握できるようになり,教材の選び方や授業の運び方を改善することができ,個々の学生への対応も以前よりずっとやりやすくなった。また学生の側でも自分の基礎力やクラスの様子がわかるので基礎学習の重要性が理解され,以前よりも積極的に学習するようになった。さらに基礎の具体的な内容と目標を示すことで学習の筋道がわかり,進歩の状況を自覚できるようになったと思われる。試行錯誤ではある35

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