3/2010
21/49

⑵  公共職業能力開発施設に対するキャリア形成支援の提言始めとする資格取得等がこれほど技能・技術の形成に不確かなものであるかについては目を疑うものであった。職業能力開発にかかわる者としては看過できず,Off・JTの効果について先行研究に手がかりを求めた。 小池はOff・JTの価値は実務経験を整理し,体系化することにあるという。「実務では多くの問題に当面するが,その処理には意外に理論を要する。それも初歩の理論を学び,それを応用して問題の推理力を高めていくことになる」(1997p.58)という。 また,小池は技能検定に関して中小企業の管理者の言葉を「技能検定に合格したからといって,職場で必要な技量が高まるわけではない。実務経験こそ技量向上の源である。実際上の効果といえば,技能検定に合格すると,後輩に教えるのに自信を持つようになるくらいのことか」(1997p.78)と紹介している。しかしながら続けて,「もしこの効果がこの程度であれば,これほどまでに企業が技能検定の合格に熱心な理由がわからない。ひとたび知的熟練の性質を想起すれば理解はやさしい。技能検定の受験準備することが,とりわけ理論コ-スの準備が,それまでの仕事体験をまとめて理論化し,問題をこなすノウハウを一段と高めるのである」(1997p.78)という。 したがって,入社前教育についても技能・技術の修得度はOff・JTや資格に係る知識等が問題解決力・変化対応力の形成に不可欠であるとするとおり,充実した入社前教育が欠かせないこと,そして学校教育がその役目を果たしていることに疑いはない。 このように小池の論を借りてOff・JTも技能検定等資格取得も学校教育も共々に技能・技術の形成に不可欠なものであることを付記する。 以上本研究の結果を踏まえて高度で専門的な技能・技術の形成を効果的に進め,ものづくり分野の現場において中核となる人材を育成するために公共職業能力開発施設と企業に対してキャリア形成支援の方策を提言する。3/2010 ① 企業の社員にとって技能・技術の高度化とは,自身の抱く課題や問題を解決してゆく過程の積み重ねであり,この過程のそれぞれの場面で社員個々人が適切に過程を積み重ねてゆける支援体制を整えることが求められよう。そのためにはすべての職業能力開発大学校等に地域のものづくりと人材育成の総合相談窓口として一元的に相談に応じる体制を整えることや,公共職業能力開発施設における事業内援助の活発な実施が企業現場の高度で専門的な技能・技術の形成に資することになろう。 ② Off・JTは実務上の問題を解消するとき有効な問題解決力を与えるものであり,それも初歩の理論を応用して問題の推理力を高めていると小池の理論を引用して述べた。国(雇用・能力開発機構)や都道府県の公共職業能力開発施設は在職者訓練の実施に当たって,役割分担をもって高度なレベルのセミナーから,職種に共通に必要とされる基礎知識コース,例えば「図面の読み方コース」等などの基礎的なレベルのコースまで広く充実して実施することが必要であろう。   自動車,電機,機械等ものづくり分野では,職業訓練を実施する民間教育訓練機関がほとんど存在しないことから,公共職業能力開発施設は,民間教育訓練機関との競合を避ける観点は持ちながらも,これら分野の基礎的なレベルの在職者訓練コースや資格取得コース,技能検定準備コース等を開設して基本的な理論的知識を付与することが必要であろう。これらの取り組みが企業現場の社員の真の技能・技術の形成に資することになろう。 ③ 指導員は自身の訓練系(機械システム系等)の能力要素を幅広く持ち,かつ特定分野の専門性を深く掘り下げたT字型人材となることを自身が志向して,企業現場の社員が抱える課題や19

元のページ  ../index.html#21

このブックを見る