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1.はじめに四国職業能力開発大学校附属高知職業能力開発短期大学校浜口  康 昨今若者の技能離れが進む一方,熟練技能者が定年年齢に到達して引退過程に入るなど,わが国の国際競争力を支えてきた熟練技能者の技能を担う次世代の人材確保・育成や技能の継承が緊急かつ重要な課題となっている。また,最近のものづくり分野の現場においては製品の品質の高度化,納期の短縮,価格競争に応じて高精度の機器が導入され,社員は新技術への対応に加えて,設備や品質の不具合,トラブル発生,効率的な生産ラインの構築等に対応できる能力が求められている。 そこで本研究は高度で専門的な技能・技術の形成を効果的に進め,ものづくり分野の現場において中核となる人材を育成するために,国および都道府県が設置する公共職業能力開発施設はどのようなキャリア形成支援をなすべきか,また企業ではどのようなキャリア形成支援をなすべきか,機械器具製造業に従事する中堅技能者を対象としたアンケートデータを活用して技能・技術の形成に影響を与える要因を抽出してその方策を提言するものである。 高度で専門的な技能・技術の形成に係る方策を考察するためには仕事を経験しつつ技能・技術を高める過程において,そこで行われる人材育成手法を3/2010個々に抽出してその効果を検証することが不可欠と思われる。しかし,現実にこの過程に立ち入って人材育成手法を抽出することはきわめて困難であることは高度で専門的な技能者の著述等から知ることができる。 例えば法隆寺の「昭和の大修理」を,戦争を挟んで20年がかりで成し遂げた宮大工西岡常一は弟子に対する口癖が「自分で考えなはれ」「学校の先生やない」であったという。また,帝国ホテル総料理長であった村上信夫は自身の著述の中で,鍋の底に残ったソースを舐めて味を知ろうとしたとき,使い終わって洗い場に戻ってきた鍋には塩や洗剤が投げ込まれていた,またフランスに料理修行に出て,ヨーロッパでも超一流といわれるホテルリッツの厨房でも肝心のポイントは教えられることはなかったというようにおよそ人材育成手法として抽出しがたい事例は枚挙にいとまがない。しかしながら高度で専門的な技能者たちは現実にこの過程を経て,高い創造性や発想力,そして経済性や競争力の追求に併せて文化的な表現力を形成している。 そこで本研究では人材育成手法を個々に抽出して検証することを避けて,「技能・技術の修得度」という概念を小池(1997)の知的熟練理論をもとに係数化して定義づけ,その定義に対して①OJT,②Off・JTや③仕事に対する興味や意欲等のキャリア志向,また④入社前教育など,仕事を経験しつつ技能・技術を高める過程でこれら4要因がどのような影響を与えるかその関係性をとらえるアプローチ手法を13― 技能・技術の形成に影響を与える結果要因の実証研究 ―調査研究報告高度で専門的な技能・技術の形成に向けた概   要キャリア形成支援の方策を求めて

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