厚生労働大臣賞(特選)を受賞された神﨑さんと来仙さんに、いくつかお話を伺いたいと思います。

受賞作品:地絡回路の再現と実践的絶縁抵抗測定支援ツール(チラクールとメガープラグ)
受賞者:神﨑 啓太郎 (関東職業能力開発促進センター)、
    来仙 昭久 (関東職業能力開発促進センター)

  • 特選受賞者1
  • チラクール
  • メガープラグ

厚生労働大臣賞(特選)の受賞おめでとうございます。受賞されたお気持ちをおきかせください。

 このたびは厚生労働大臣賞(特選)という名誉ある賞をいただき、大変光栄に、そして嬉しく思っております。


今回の受賞作品の教材はどのようにして誕生したのですか?教材誕生の経緯(きっかけ)について教えてください。

 ビル設備管理の現場で漏電ブレーカが動作することは珍しくありません。ケーブルの劣化が原因であったり、機器の絶縁不良であったり、テナントの飲食店のコンセントが濡れていたりと、その理由はさまざまですが、ビル設備員は不良個所の特定と切り離し、報告、改修を迅速に行う能力が求められます。これらの能力を身に付けるには漏電および地絡のメカニズムを知り、不良箇所の早期検出ができる知識と技能を習得することが重要です。それらを総合的に学ぶことができる環境が構築できないかと考えました。

 まず、「チラクール」は、シーケンス制御の実習中に思いつきました。当センターに漏電しているモータがあり、アース線を繋いで運転したところ、当たり前ですが漏電ブレーカがトリップしました。しばらくはその漏電しているモータを使って漏電・地絡のメカニズムを訓練で紹介していたのですが、安全面や訓練での汎用性を考えて教材化しようと思い立ちました。
次に、「メガープラグ」の発想は訓練生の質問がきっかけです。「電圧検知型パイロットランプの抵抗を測ったらどうなるんですか?」と質問されて、テスタで測定すると当然∞Ωになりました。 ところが、メガー(絶縁抵抗計)で測定すると約0.1MΩとなりました。【絶縁抵抗】と【0.1MΩ】、この2つのキーワードでメガープラグを思いつくのに時間は掛かりませんでした。


チラクールとメガープラグはどういった教材で、魅力(売り)は何ですか?

【チラクール】
 チラクールはビル管理の現場でよくある電気事故の1つ・地絡事故を安全に再現します。事故を再現することで、地絡電流の経路確認、保護装置である漏電ブレーカの特性やアース線の役割などを実感することができます。

【メガープラグ】
 メガープラグの魅力は、日常使っているコンセント設備が教材になってしまうということです。具体的には漏電の原因である絶縁不良を任意のコンセント回路に再現して、その不良個所をメガーで探し出すという訓練に使います。メガープラグは日本の100ボルトのコンセント設備ならどこでも、そして誰でも簡単に使える教材です。詳細については割愛しますが、メガーによる測定の仕組みやテスタの抵抗測定との違いなどの説明もしやすい教材となっています。

※「技能と技術 2015年4号」絶縁抵抗測定を楽しくする「メガープラグ」


二つの教材を開発する以前の訓練との違いは何ですか?

 これまでの訓練は絶縁抵抗測定用に模擬回路を作って使用するか・・・  または実際の設備を測定する場合もありますが、この場合は不良がなく、健全な回路であるため、訓練生は測定した実感が湧かない。いずれにしても、現実味に欠ける訓練を行っている状況でした。メガープラグは日常使っているコンセント設備の任意の回路に擬似的な不良箇所を作り出すことができます。そのため、受講生も不良箇所を特定できない状況での絶縁抵抗測定となり、実践的な絶縁抵抗測定の手法を興味深く身に付けることができます。実際に訓練で使ってみると、受講生同士がゲーム感覚で楽しんで実習に取り組んでくれます。測定の実習時間を長く取れる分、訓練生の理解も深まるようです。チラクールもまた実際の設備を使って安全に地絡事故を再現できるため、アース線の重要性、漏電ブレーカの動作特性の確認、工夫をすれば保護協調の確認実習にも使え、訓練の幅が広がります。


教材を作成する上で一番苦労したのは?

 チラクールは製品っぽく仕上げることを目標にしていましたので、多少苦労がありました。ハンディサイズにしたかったので、まずは筐体選びから。そのあと、ボックスに収まるように部品の選定・設計をしました。老眼が進んできたので、半田付け等の細かい作業がしんどくなってきました(笑)。
メガープラグは非常にシンプルです。安価な材料で5分程度で作成できますので、ためしに作ってみて、訓練で活用していただければと思っています。
※作り方は後日、基盤整備センターHPにて公開予定


今後の構想ついて

 今回はマニュアル・実習例のイラストにもこだわりました。誰でも簡単に流用・アレンジできるようにMicrosoft Wordのフリーフォームを使って作成しています。教材のイラストを見て驚く人も多いので、このフリーフォームを使ったイラスト作成について、指導員向けの教材ができないかと思っています。Wordの基本機能だけでそれなりの図やイラストが作成できることは教材作りに大きなメリットとなると思いますし、イラストのデータを共用できる仕組みがあれば、この環境が共通プラットフォームとなり、職業訓練教材もより良いものになっていくと考えています。


次に注目しているものは何ですか?

 やっぱり、「論文コンクール」って答えた方が良いですか?


ありがとうございます。(笑)
皆さん、来年度は論文コンクールです。是非応募して下さい!!(笑)




厚生労働大臣賞(特選)を受賞された望月さんに、いくつかお話を伺いたいと思います。

受賞作品:信号品質(SI) -反射と終端抵抗-
受賞者:望月隆生 (近畿職業能力開発大学校)

  • 特選受賞者2
  • 信号品質(SI)

厚生労働大臣賞(特選)の受賞おめでとうございます。受賞されたお気持ちをおきかせください。

 大変光栄であるとともにうれしく思っています。


今回の受賞作品の教材はどのようにして誕生したのですか?教材誕生の経緯(きっかけ)について教えてください。

 信号品質の重要性を学生に理解させたいという風に考えたのが始まりです。

(信号品質とは?)
 デジタル信号(電圧の低(0)と高(1)だけで表現した信号)は単純に接続しただけの配線では、反射と呼ばれる現象が発生して信号に乱れが生じます。信号の乱れは極短時間なので基礎的な実習で作るような回路では影響が無いのですが、クロックが100MHzを超えるような環境で使用されるデジタル回路では、動作を狂わす原因となってしまいます。この信号の乱れの程度を信号品質と呼び、信号品質を低下させない技術は、今日のコンピュータやデジタル家電の設計において必須の要件なのです。

(どのような家電製品の中で使われている技術なんですか?)
 TVや携帯電話、デジタルカメラ等、身近な家電製品の色んな部分で使われています。
 そうした技術動向を踏まえて、能開大の生産電子情報システム技術科でも信号品質は習得しなければならない技術のひとつなのですが、学校の実習環境では信号品質が動作に影響するほどの高速デジタル回路の実験が行えませんでした。
 実習環境に制約があったにせよ、体験を伴わない実習では説得力に欠けてしまうと考え、なんとかして「正しく接続しているのに回路が動作していないね。これは信号品質が低下しているからだよ」、「でも、このように適切に対策をすると・・・ほら正常に動作したよ」と言える実習が出来ないものかと思い、教材開発に着手しました。
 信号が乱れる時間をいかに延ばして回路の誤動作まで持ち込めるかが鍵でしたが、ふとした思い付きでケーブル端の反射でデジタル回路を誤動作させてみると、実習で使用する測定器でも誤動作の現象を確認することができました。この時の実験をベースに実習の組み立てを行い、まとめたものが今回応募した教材です。


この教材の魅力(売り)は何ですか?

 学校の実習環境では見えない領域の現象であった「信号品質の低下による回路誤動作」を、低価格の測定器で計測できるようになりました。


教材を使った際の訓練効果について教えてください。

 信号品質の低下による回路の誤動作を経験することで、信号品質を考慮する必用性を理解することができます。さらに信号経路の変更や終端抵抗の接続を行うと、信号品質の向上によって回路動作の正常化が経験できることで、信号品質に関する対策技術の有効性を理解できます。


教材を作成する上で一番苦労したのは?

 特に苦労というほどのことはありませんでしたが、安定した測定を実現しながら、実験回路の低コスト化と基板加工機による加工時間の短縮化を図るため、回路基板の試作を重ねました。


今後の構想

 実際の設計において信号品質の検討は伝送線路シミュレータというソフトウェアを使用します。実習の中でも伝送線路シミュレータの使い方や演習に多くの時間を割きます。今回の教材はこの伝送線路シミュレータの題材とすることも想定していました。今後は「教材の実験回路基板を題材としたシミュレータの習得」、「シミュレータを活用した設計」などの展開を考えています。


次に注目しているものは何ですか?

 デジタル信号処理でしょうか。デジタル機器にとって必須の技術ですが、体系的に技術習得をする環境が構築できていないような気がしています。





 明治記念館にて、厚生労働大臣賞(特選)を受賞された2組に事務局として、突撃インタビューを行いました。
 インタビューを通して、受賞者の指導員としての技量や熱意等を肌で感じることができ、非常に感銘を受けました。事務局の一員として、職業訓練教材コンクールに携われたことを非常にうれしく思います。
 最後になりましたが、沢山のご応募をいただき、誠にありがとうございました。
 来年度は「職業能力開発論文コンクール」が開催されますので、今から準備方、宜しくお願いいたします。

職業訓練教材コンクール事務局 長谷川